みらいロボットの夢
エピソード10 第3話 DNA

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   それから3日後の正午のことだ。 ROBO太郎Ⅳから通信が届いたことを知らせるランプがついた。 「社長。ROBO太郎Ⅳから、記録映像が届いています。確認されますか? 」    真浦が冷静に訊ねた。 あの話をしてから、気のせいか、口調が若干、優しくなった気がする。 「ああ。頼むよ」    今川は、大きく伸びをすると言った。  宇宙ステーションに来てから、 色々とやることが山積みで、 ROBO太郎Ⅳの回収期限も迫っていたこともあり、 毎日、朝早くから、深夜まで作業が続いていた。 「社長。仮眠を取ってから、チェックしてはいかがですか? 」    磯屋が告げた。 「いいや。今、見たい。 何か映っていると思うと、休んでもいられないよ」    今川は、お茶を一口飲むと言った。  ROBO太郎Ⅳの記録映像が流れた。 今川は食い入るように、映像を眺めていたが、 ある場面で、停止するよう真浦に命じた。 「3日前。ここに、宇宙船が砂に半分埋まっていたはずだが、跡形もなくなっている」  今川は、3日前の録画映像を出させて 2つの映像を見比べた。 やはり、3日前にあったはずの宇宙船が跡形もなく消えていた。 他の場所を探したが、物体すら見当たらない。 今川は頭を抱え込んだ。 (いったい、どうなっている?   Dr.ナイジェルは、砂嵐の中、火星を出立したということか? ) 「社長。顔色が悪いですけど、大丈夫ですか? 」    磯屋が訊ねた。 「外の風にあたって、頭をクールダウンして来る」    今川は、宇宙ステーションの外に飛び出すと 全速力で、草むらを走り抜けた。  何気なく、すぐ下の草むらを見下ろすと、 ミステリーサークルのように、周囲の草がなぎ倒された場所に、 宇宙船が停まっているのが見えた。 (あれは、いったい、何だ? )  今川は急いで下に降りると、宇宙船におそるおそる近づいた。 宇宙船の周りを歩いていた時、突然、小さい竜巻が起った。 次の瞬間、タラップが降りて来て、開け放たれたドアの向こう側から、 人影が現れた。今川は強い光りに驚いて、その場にしゃがみ込んだ。 「今川君じゃないか? 」    聞き覚えのあるハスキーボイスが聞こえたため、おそるおそる、声の聞こえた方を見ると、 宇宙服を着た白髪男性が、今川の目の前に立っていた。 「Dr.ナイジェル。あなたですか? 」    今川は、立ち上がると訊ねた。  確認しようにも、強い光りに視界がさえぎられて Dr.ナイジェルの姿がよく見えない。 「ひさしぶりじゃのう。元気だったか? 」    Dr.ナイジェルが、 今川に歩み寄ると気さくにあいさつした。 「火星にいらっしゃいましたよね?  いったい、何をしていたんですか? 」    今川が訊ねた。 「下見じゃよ。安全だとわからなければ移住出来ない。 水と酸素は何とかなりそうじゃ。 あとは、電力をどうするのかなんじゃが‥ 」    Dr.ナイジェルがぶつぶつ言っているところに、 まばゆい白い光りを身にまとった 宇宙服姿の白髪男性が姿を現した。 「Dr.コーウェル! てっきり、火星におられると思っていましたが、 あなたではなく、Dr.ナイジェルがおられたので、 どうしているのか気になっていたんです」    今川は、2人が一緒にいることに驚きを隠せなかった。 「中を見せてあげるよ」    キアンは、今川を宇宙船の中に招き入れた。 今川は、好奇心に勝てずに招きに応じた。 意外にも、乗り物の中は広く、操縦室の他にキッチン、ダイニングルーム、 バスルーム。そして、個室が3部屋あった。 「あなたたち以外にも、他に誰かいるのですか? 」    今川は、個室の1つから話し声が聞こえたため気になって訊ねた。 「君に会わせたい人がいる」    キアンは、その部屋のドアを開けると今川の背中を押した。 今川は、前につんのめるようにして部屋の中に入った。 「インティ、ナンナ。君たちの息子を連れて来たよ」    キアンが、部屋の奥にいる エメラルドグリーンのオーラを全身から発した2人に向かって声をかけた。  2人が同時にふり返った瞬間、今川は、初めて会った人たちなのに なつかしい感じがして気がつくと、涙が頬をつたっていた。 2人のうち、女性の方は、フインとうりふたつだった。 「どうして泣いているの? 」    若い女性が、今川の顔をのぞき込むと訊ねた。 「彼は、あなたたちに会うことが出来て、うれし涙を流しているのですよ」    キアンが説明した。 「りっぱになったな」    若い男性が言った。 「あの、これは、いったい、どういうことなのですか? 」    今川が、キアンの方をふり向くと訊ねた。 「君がここにいると知り、火星へ向かう途中に立ち寄った。 君に、彼らを会わせたくてね」    キアンが穏やかに答えた。 「彼らが、私の遺伝子上の両親なのですね? 」    今川は、感動で胸がいっぱいになった。 「そうさ。全員、無事に、脱出することが出来たよ」    キアンが言った。 「なぜ、宇宙平和連邦政府は、 優れたDNAを残そうとしたのですか? 」    今川は、ずっと気になっていたことを訊ねた。 「アイデンティティーを絶やさないためだ」    キアンが答えた。 「あの。もうひとり、あなたがたの遺伝子上の息子がいます。 ぜひとも、彼とも会ってください」    今川は、東元のことを思い出して言った。 「悪いが、長居は出来ないんだ」    キアンが言った。 「2 、3日待ってもらえませんか?  連絡すれば、すぐに駆けつけると思います」    今川はあわてて、東元に連絡を入れた。  自分だけ、遺伝子上の両親に会うわけにはいかない。 同じ運命を持つ者同士、良き友人以上の関係を続けて来たのだ。 特に、妹のマヤの死後は、かけがえのない存在となった。  翌朝、今川は、連絡を受けて駆けつけた東元を連れて両親のいる宇宙船へ向かった。 宇宙船の近くまで来た時、何か様子がおかしいことに気がつき、 2人はとっさに、木の影に身を隠した。 「わしは、何も悪いことはしていない! 」    Dr.ナイジェルが、黒いサングラスをかけて 黒いスーツに身を包んだ男たちに囲まれるようにして、 宇宙船から出て来るのが見えた。 「両親が危ない!」    東元が飛び出そうとしたところ、 今川はあわてて、東元のジャケットをひっぱって引き留めた。 「今はまずい」    今川は小声で言った。  Dr.ナイジェルが無理矢理乗せられた ヘリコプターが飛び立ったのを見届けた後、 2人は急いで、宇宙船の中に駆け込んだ。 しかし、宇宙船の中は、もぬけの殻だった。 「Dr.ナイジェルの姿は、確認出来ましたが、肝心の両親の姿が、どこにもありません。 いったい、どういうことですか? 」    東元がやりきれなさそうに言った。 「長居出来ないと言っていたから、もう、発ったのかもしれない」    今川が言った。 「両親は、どんな人たちでしたか? 」    東元が訊ねた。 「優しそうな人たちだった」    今川が答えた。 「あの男たちは、いったい、何者でしょうか? 」    東元が冷静に訊ねた。 「見た感じ、FBIの捜査官みたいだった。 誰かが、ここに宇宙船が降り立つところを見かけて通報したのかもしれない」    今川は答えた。2人は、どちらからともなく、 宇宙船の外に出ると同時に、空を見上げた。 「いつもと変わらないはずの空が、今日はなぜか、違うものに見えます」    東元が小さく息をつくと言った。 「Dr.ナイジェルは、悪事をたくさん働いているが、 どこか憎めないのだよなあ」    今川が言った。 「他人はどうあれ、我々にとっては、 良いことばかりしてくださっているからではないですか? 」    東元が言った。宇宙ステーションに戻ると、 磯屋と真浦が我先にと、駆け寄って来た。 「大丈夫ですか? 」    真浦が訊ねた。 「何がだい? 」    今川はとぼけてみせた。 「不審者が、戸隠山にいるというので 警察に通報したのですよ。 刑事に会いませんでしたか? 」    真浦が大真面目な顔で言った。 「どうやら、刑事とは、すれ違いになったらしい」    今川が答えた。 「とにかく、お2人が、ご無事で良かったです」    磯屋が言った。 「ところで、東元さんは、 何の用でいらしたのですか? 」     真浦が、東元をちらりと見ると言った。 「言わなかったか? 」    今川が苦笑いしながら言った。 「ひさしぶりだね。元気かい? 」    東元が、真浦に微笑んだ。 すると、真浦は目をそらした。 「元旦那とひさしぶりに会って、気まずいか? 」    今川が苦笑いしながら言った。 「そんなことはありません」    真浦が否定した。  結局、黒いサングラスをかけて 黒いスーツに身を包んだ男たちは、 真浦が通報して駆けつけた刑事ということで納得したが、 騒動の中、遺伝子上の両親やキアンは の消息は途絶えてしまった。 まるで、夢でも見ていたかのような気分になった。 「きっとまた、会えますよ」    今川は、気を持たせるようなセリフを東元に言ったものの、 自分は、1度会えたからいいが、東元は会えなかったことを考えずに、 軽はずみな発言だったとあとになって後悔するのであった。       THE END

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