みらいロボットの夢
エピソード1 第2話 商談

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 あっという間に、3人を乗せたベンツは、 農林水産省の庁舎前に到着した。 それから、ベンツを駐車場に停めた後、玄関へ向かって歩き出した。 入り口にさしかかった時、敷地内に設置されていた 監視カメラがいっせいに、3人の方を向いた。 警備員不在だったことから気を抜いていたが、 敷地内に入った瞬間から、 行動の一部始終を監視されていたとわかり 3人の間に緊張感が走った。 さぞかし厳重なセキュリティ体制なのだろうと 覚悟して庁舎内に足を踏み入れたが、 ただ広い玄関ホールには、 2台のエレベーターが設置されているだけで、 警備員や受付嬢などの職員の姿は、どこにも見当たらない。 事前に、農林水産省からは、「エレベーターに乗車して、 大臣室までお越しください」との案内が届いていたが、 受付がないため、何階でエレベーターを降りたら良いのかわからない。 「とりあえず、エレベーターの前まで行ってみましょう」    磯屋が先頭に立った。  エレベーターの前に立つと、ドアがスーッと開いた。 エレベーターに乗り込んだ途端、 階数ボタンを押していないにも関わらず、 エレベーターがひとりでに動き出した。 エレベーターは、猛スピードで上昇した後、 最上階に止まった。エレベーターが開き、 毛足の長い赤い絨毯が敷き詰められたロビーが見えた。 廊下を進むとすぐ、前方に、頑丈そうな鉄製のドアが現れた。 指紋認証で開くドアらしく、ドアノブがらしきものが見当たらない。 「株式会社ゼウスニアの者です」    磯屋が、ドア越しに社名を告げると ひとりでに鉄製のドアが開いた。 鉄製のドアの向こう側には、 農林水産大臣の大河左近たいがさこんが待ちかまえていた。 「株式会社ゼウスニア代表取締役の今川空雅と申します。 このたびは、面談に応じてくださり、 まことにありがとうございます」 「磯屋と申します」 「真浦です」   3人は、大河の向かい側のソファに並んで座った。 「それで、君たちは、どんなロボットを製作しているのだね? 」    大河が単刀直入に訊ねた。 「農林業、オフィス、介護の分野で活躍するロボットの開発をしています」    今川が緊張気味に答えた。 「先日、君たちの会社を批判した ユーチューブの動画を職員が見つけた。 何かトラブルを抱えてはいないだろうね? 」   大河が訊ねた。 「製品の不具合が1件ございましたが、 既に解決済です。ご安心ください」    今川が答えた。その時、 大河があくびをかみころしたのを見逃さなかった。 「10年後には、シンギュラリティが起きると 世間では言われていますが、 大臣、あなたは、我々、人間とAIが共存する社会を 実現するために、何をすべきだと思いますか? 」    突然、真浦が何を思ったか、大河に質問を投げかけた。 「業務の判断、管理、チェックは人間の仕事。 タスク管理、システム連携、データ出力、通知、照会は、ロボットの仕事という風に 常に仕事を線引きして考えるべきだと思う」    大河が咳払いすると答えた。 「つまり、お互いのテリトリーを犯さずに、 つかず離れずのスタンスがベストというわけですね? 」    真浦が言った。 「話がだいぶ反れてしまいましたが、 失礼して、本題に入らせていただきたいと思います」    磯屋が告げた。 「農業ロボットをアフリカに普及するプロジェクトとは、 また、ありきたりなことを考えたものだね」    大河が半笑い気味で言った。 「アフリカの広大な農地を運営するためには、 日本が持つ先端農業技術が不可欠です。 弊社が開発した農業ロボットを導入すれば、 アフリカ農業は、飛躍的な発展を遂げること間違いありません」    今川が、自信を持ってアピールした。 「いくら外から働きかけたって、 中にいる人間が変わろうとしなければ何も変わらない。 農業ロボットを大量導入したところで、 現地の人間が使いこなせなければ鉄くずと同じだ」    大河が言った。 「私は、発展途上国を支援するのは先進国の務めだと思います。 日本は、戦争や震災からの復興を見事果たしました。 復興のノウハウを立ち直ろうとしている国に伝えるべきです」    今川が身を乗り出して訴えた。 「日本近海にレアメタルをねらった海賊が度々出没するようになって、 あんなに豊富にあったレアメタルが底をつきかけている。 今は、他国を支援している場合ではないのだよ」    大河がため息交じりに告げた。   「行き過ぎる海洋資源開発は、 自然破壊や環境汚染を招いていると 警鐘を鳴らしている専門家もいます。 聞いた話によれば、現在のところ、 リサイクル分で十分、間に合うそうではないですか? 」    今川はいつになく、熱心に訴えた。 明らかに、大河の反応はうすい。 3人の間で、あきらめムードがただよった。 「君に言われなくても、 近じか、採掘プロジェクトは中止にするつもりだ。 これ以上、掘っても採れる量はたいしたことない。 海洋資源に代わる新たな資源を捜すさ」    大河は、勢い良く立ち上がるとドアを開けた。 「もう帰れ」という合図だとわかり、 3人は大臣室の外に出た。 「失礼しました」    無情にも、3人の鼻先でドアが閉まった。  その日の夜。今川は、1週間ぶりに早く帰宅した。 タワーマンションの上階にある部屋のドアを開けると、 玄関に見慣れぬ女物の靴が置いてあった。 「MIMI。帰ったぞ。いないのか? 」    今川は玄関先でさけんだ。  帰宅するといつも出迎えてくれる 女性型ヒューマノイドのMIMIが、 今夜にかぎって出て来る気配がないからだ。 リビングへ通じるドアを開けると、 MIMIが、見知らぬ中年女性といるのが見えた。 「ご主人様。お帰りなさいませ」  MIMIが、今川に気づいて歩いて来た。 「留守中は、誰も部屋に入れるなとあれほど言っただろう」  今川が言った。 「えー。お忘れですか?  新年会のビンゴ大会で当たった商品の中に、 ハウスキーピング1日券があったではありませんか?  今日がその日なのですよ」  MIMIが言った。  ハウスキーピング1日券は、真浦のアイデアだ。 学生のころから、IoT家電機器を使い慣れている今川にはわざわざ、 家事を業者に依頼する人間のきもちが理解出来ないが、 世の中には、人間のぬくもりを欲する タイプの人間が少なからず存在するらしく、 人間のハウスキーパーの需要はいまだあるようだ。 「たしか、17時までのはずじゃなかったか。 なのに、まだ、帰っていないとはどういうわけだ? 」    今川が、MIMIに小声で訊ねた。  潔癖症気味の今川は、今まで一度も、 他人を自宅に招き入れたことがない。 赤の他人が、家中を歩きまわり、 家具に触れたと考えるだけで嫌悪感を覚えた。 「本日、担当させていただいた吉沢と申します。 今回は、リビングの掃除と夕食作りをさせていただきました。 また何か、ご用命がございましたらよろしくお願いします」    エプロン姿の中年女性が、近づいて来てあいさつした。  一応、エプロンを身につけているものの、 化粧の濃さと胸の谷間が見えそうな服が、 水商売の女を思わせて家庭的な感じがしない。 「あれは、いったい、何の真似ですか? 」    今川は、窓辺に飾られた観葉植物を目ざとく見つけると指摘した。  今川は、自分の他にいきものがいる気がして落ち着かないことから、 観葉植物や生花を部屋に置かないことにしている。 「あまりにも、殺風景なお部屋でしたので飾ってみました」    吉沢が上目遣いで答えた。 「観葉植物のセッティングは、サービスに含まれていないはずですが?  サービスに含まれていないことを勝手にしていただいては困ります」    今川が、いつになくきつい口調で言い放った。 「す、すみません」    吉沢が平謝りした。 「用が済んだのでしたら、すみやかにお引き取りください」    今川はそう告げると、バスルームへ向かった。 「私、何か悪いことしましたか? 」  吉沢が、MIMIに訊ねた。 その直後、MIMIの動きが、ピタリと止まった。 「ちょっと、大丈夫? どこか具合でも悪いのかい? 」  吉沢が、MIMIのからだを支えるようにして訊ねた。 「電池切れになりました。充電器に戻ります」     MIMIは、吉沢から離れると、 充電器の上に上がり、そのまま動かなくなった。  

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