みらいロボットの夢
エピソード9 第3話  秘められたルーツ

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「言っておくが、ここは、仮の場所で正式な本部ではない」    Dr.ナイジェルが、今川に耳打ちした。 「石川氏は、代表のクローンだったのですか?  どう見ても、ふつうの人間なのに信じられません」    今川が言った。 「あの人だけじゃない。知らないだけで、クローンはそこらじゅうにいる」    Dr.ナイジェルがウィンクすると言った。 「火星有人飛行計画なんて、本当に、実現出来るのですか? 」    今川が訊ねた。  今まで、何度となく、いろんな著名人により、 人類が、火星へ旅立つ壮大なロマンは語られて来たが、 世界情勢の悪化や気候変動などにより、実現にはいたっていない。 「まもなく、宇宙エレベーターが完成する。 国民の関心が一気に、宇宙エレベーターに注がれる今こそ、 長年の夢だった宇宙移住計画の第一歩を踏み出す時じゃ」    Dr.ナイジェルが告げた。 「とにかく、これ以上、 あなたの野望に巻き込まれるのはごめんですから」    今川が言った。 「それは無理じゃ。おまえさんは、わしを無視出来ない。 おまえさんには1度、Dr.コーウェルに会ってもらう」    Dr.ナイジェルが言った。 「それにしてもなぜ、医師であるあなたが、 宇宙開発に関与しているのですか? 」    今川が好奇心で訊ねた。 「再生医療技術の発展のためじゃよ」    Dr.ナイジェルが即座に答えた。 「再生医療技術の発展と宇宙開発との間には、 いったい、どんなつながりがあるというのですか? 」    今川が訊ねた。 「再生医療技術が進歩するためは、生物の進化と重力が、重要というわけじゃ」    Dr.ナイジェルが答えた。  翌日の午後。今川は、Dr.ナイジェルと共に都心にある 高級ホテルのラウンジで、キアン・コーウェルと面会した。  自己紹介が済んだ後、キアンが、Dr.ナイジェルに、 今川と2人だけにしてほしいと告げて席を外させた。 キアンは、フランス在住のアメリカ人ではあるが、 日本に住んだことがあるらしく、流ちょうな日本語を話した。 「実は、僕には、重大な秘密があるんだ」    2人だけになると、キアンが神妙な面持ちで告げた。 「初対面の私に、重大な秘密を打ち明けて大丈夫なのですか? 」    今川が慎重に訊ねたと、キアンが大きくうなづいた。 「重大な秘密とは、いったい、何ですか? 」    今川が訊ねた。 「僕は、2050年の未来から来た異星人なんだ」    キアンが小声でささやいた。 「今、何とおっしゃいましたか? 」    今川は、聞き間違いかと思い訊き直した。 悪い冗談かと思った。 「信じるか信じないかは君次第さ。 とにかく、話を聞いてほしいんだ」    キアンが真顔で言った。  僕が生まれ育った星は、 地球からはるか遠く離れた宇宙の果てにあった。 ある日突然、その星は消滅した。 消滅する直前、僕は、仲間たちと火星へ逃れるため宇宙船に乗り脱出をはかった。 ところが、火星へ向かう途中、乗っていた宇宙船が、星が爆発した衝撃により、 突如、宇宙空間に出現したブラックホールに吸い込まれた。 気がついたら、2011年の地球にタイムワープしていた。 話し終えた後、キアンは深く息をついた。なぜか、その表情は、晴れ晴れとしていた。 「私は、つい最近までは、科学で証明出来ないことは信じないたちでした。 ですが、最近、出生の秘密を知り、意識がだいぶ変わりました」    今川が静かに告げた。  以前、今川は、一生を終えた超新星が巨大な大爆発を起こしたことにより、 ブラックホールが出現するという話やブラックホールの周囲に時空のゆがみが生じて タイプワープが可能になるという話をネット記事で読んだことがある。  ブラックホールに吸い込まれた場合、宇宙の藻屑となるとする説が有力視されている。 キアン・コーウェルの話が本当ならば、ホーキング博士による 別の宇宙(パラレルワールド)に通じる説は正しかったことになる。 「ところで、君は、コールドスリープについて知っているかい? 」    今川が黙っていると、キアンが訊ねた。 「生きている人間の体温を低体温状態に保ち、 宇宙船で宇宙へ送り出し、しかるべき時が来たら、 その人間に、蘇生術を施して覚醒させる計画ですよね? 」    今川が答えた。  今川は、大内から、クライオニクスについて話を聞いた後、 未来の医療について調べた。 その際、コールドスリープについて知った。 クライオニクスが、死体を冷凍保存するのに対して、 コールドスリープは、生きている人間の体温を1時間に 1度ずつ32度から 34度に下げて低体温状態に保ち保存する。  雪の中、仮死状態で発見された人が、からだを温めて平熱に戻したことにより、 低体温状態から脱して、一命を取り留めたというケースがある。 「発見された時、僕の脳は、激しく損傷を受けていた。 日本の医療チームが行った脳低体温療法のおかげで、一命を取り留めて後遺症も軽く済んだ。 まさに、あの時の僕は、コールドスリープと同じ状態だったんだよ」    キアンが目を見開くと言った。 とにかく、眼力が半端ない。 ブルーの大きな瞳で、じっと見つめられると、反論しづらくなる。 「脳低温療法については、私も、ある程度の知識を持っています。 脳低体温療法を受けた患者の中には、 一時的に、記憶を失くす人も少なくありません。 無意識に、記憶がすり替わったのではありませんか? 」    今川が慎重に訊ねた。 「それはないと、はっきり言える。 実は、僕が、火星へ行くことを決めたのは、消滅する前の故郷の星に戻るためなんだ」    キアンが答えた。 「他の宇宙飛行士の手前、単独行動は出来ないと思いますが、 何か策はあるのですか? 」    今川が訊ねた。 「火星に到達する前に、 僕だけ、小型宇宙船に乗り換える。 FBIを通じて、JAXAの許可は、取ってあるから大丈夫だ。 消滅する前に戻ることが出来れば、大きな被害を未然に防げる。 おそらく、逃げおくれた人たちが大勢いるだろう。 全員、脱出出来るようにするつもりだ」    キアンが答えた。 「実は、私は、2011年に地球に墜落したという UFOに保存されていたヒト胚から誕生しました。私の他に、あと2人います」    今川は、キアンだったら、 何か知っているかもしれないと思い訊ねた。 「知っている。無事に、育って良かった」    キアンが軽い口調で言った。 「知っているということは、 あなたも、弥勒ボートの関係者なんですか? 」    今川が訊ねた。 「所属医師だ。ところで、 遺伝子上の両親のことは知っているのかい? 」    キアンが身を乗り出すと言った。 「知りません」    今川は思わず、下を向いた。  両親の存在すら実感出来ないのだ。 自分は、人間というよりも、 実験動物に近い存在だと思った。 「僕の記憶が正しければ、宇宙平和連邦政府は、 優秀なDNAを残すため優れたヒト胚を特殊なカプセルに入れて保存していた。 君たちの遺伝子上の親は、選ばれし、エリートだったんだよ」    キアンが優しい声で言った。 「私の遺伝子上の両親は、無事に、脱出出来たのでしょうか? 」    今川が訊ねた。 「それはわからない。 何せ、僕は、2011年の地球にタイムワープしたのだからね。 他の人たちが、どうなったのか見当もつかないよ。 爆発前に、脱出出来ていたら、火星に逃れているかもしれない」    キアンが答えた。 まるで、SF映画のような話を語るキアンが、外国人映画俳優のように見えてきた。 「あなたが住んでいた星は、地球では、何と呼ばれていますか? 」    今川が好奇心で訊ねた。 「地球では、ヘビつかい座と呼ばれている。 ちなみの我々の先祖は、この地球からヘビつかい座に移住した地球人らしい。 つまり、地球は、僕にとって、ルーツなんだ」    キアンが答えた。 「なぜ、せっかく命が助かったのに、わざわざ、困難な道を選ぶのですか?  もし、故郷の星に、たどり着いたとしても生き延びることは、出来ないかもしれません」    今川が訊ねた。  地球で生まれた自分と望まぬ形で地球に来たキアンとは、 やはり、考えた方が異なるのだと思った。 「自分だけ幸せになることは、僕には出来ない。 僕は、この手で多くの患者を救って来たが、故郷の人たちを救えなかった。 悔やんでも悔やみきれない」    キアンが訴えた。  今川はそれを聞いて、キアン・コーウェルは、まともな人間だと安堵した。 Dr.ナイジェルとは、大違いだと思った。  それから数週間後。今川は、東元を銀座にある個室完備のレストランに呼び出して キアンから聞いた話をすべて話した。 東元は、今川が話し終えるのを見計らうと穏やかに告げた。 「Dr.コーウェルが、2011年にタイムワープしたおかげで、 私たちは、この世に生まれ落ちた。 Dr.コーウェルと社長が再会しなかったら、私たちの遺伝子上の両親のことも 知ることも出来なかったんですね」 「私は、運命の出会いというのは、本当にあるものだと思いました」    今川がそう言うと、東元が大きくうなづいた。 「今川社長。将来の話をしても良いですか? 」 「あ、はい」 「いずれ、私は、テクノロイズムの代表取締役社長に就任します。 その暁には、石川氏の意志を継いで、この国の医療の発展に貢献出来たらと考えています」 「期待しています」 「もし、私に使命があるとしたら、 私を生かして支えてくれる人たちへの恩返しだと思っています」 「東元さんらしいですね」 「そうですか? 」 「石川氏の意志を継げる人は、あなたしかいないと思います」    今川は、東元は、石川氏に似ていると思った。  2人の間に、血のつながりはない。 しかし、人間には、DNAを環境により 進化させる能力が備わっていると、今川は信じていた。 「ありがとうございます。 あなたに言われると心強い。ところで、紹介したい人がいます。 今日、ここに連れて来たので、会ってもらえますか? 」    東元が照れ笑いを浮かべながら言った。 「紹介した人というのは、もしかして、婚約者とか? 」    今川が冗談めかした。  少しして、障子が開いて、 誰かが中に入って来た気配を感じて、今川は後ろをふり返った。 「真浦さん、隣へ」    東元が告げた。 「真浦! おまえが、まさか!? 」    今川はすました顔で 東元の横に座った真浦をガンミした。 (いつから、デキていたんだ?? ) 「社長、今後は、東元さんのフィアンセとしてお見知りおきください」    真浦が頭を下げると告げた。 「あ、うん。わかった。とにかく、おめでとう」    今川が言った。 「驚きましたか? 驚くのも当然ですよね?  私もまだ、真浦さんが交際をOKしてくれたのが信じられません」    東元が、真浦を見つめながら言った。 すでに、尻に敷かれている感じに見えた。 「正直、驚きましたが、いいところに収まったのではないかと思います」    今川はそう言うと、お茶を一口飲んだ。 「来年の春、結婚する予定です。 社長には、ぜひとも、真浦さんの父親役として、 エスコートをお頼みしたいのですか? 」   東元が、今川に言った。 「ご冗談を。父親役って、 私は、真浦とは、さほど、年が変わりませんし、 父親役であれば、佐目教授がふさわしいのでは? 」    今川は即座に拒んだ。 (自分と同世代の女性の父親役など、冗談じゃない!  自分の結婚でさえ、まだなのに!  なぜ、佐目教授ではなく、私なんだ? ) 「社長。私は、佐目教授よりも、 社長にバージンロードを一緒に歩いてもらいたいのです。 私の両親は離婚していて、父親には、別の家庭があり頼めません。 佐目教授のことは尊敬していますが、社長は、私の親友以上の存在です。 公私共に、苦楽を共にして、誰よりも、お互いのことを理解していると思っています」    真浦が突然、涙を流して訴えた。 「おい、どうしちゃったんだよ? 」    今川は思わず、驚きの声を上げた。 (いつもは冷静沈着な真浦が、メンタル崩壊している? ) 「確認しておきたいのですが、 社長と真浦さんは、 本当に、これまで、何もなかったのですか? 」    東元が、今川に訊ねた。 「ちょっと、何を言っているのよ?  社長と私が、どうにかなるわけないでしょうが? 」    真浦が、東元に言った。 「それを聞いて安心しました。 三角関係だけは避けたいですから‥‥ 」    東元が言った。 「もちろん、私も、真浦を異性として意識したことはありませんよ。 東元さん、安心して、真浦と幸せになってください」    今川が告げた。 「近い内、磯屋君も誘って、皆で夕食会をしませんか? 」    東元が、今川に言った。 「いいですね。ぜひ」 「磯屋には、当日まで、秘密にしておいてください。 あいつの驚いた顔が見たいので‥‥ 」    真浦が言った。 「おまえってやつは‥‥ 」    今川が苦笑いした。 「日時と場所は、お互いのスケジュールと相談ということでよろしいでしょうか? 」    東元が、今川に言った。 「はい。楽しみにしています」    今川が答えた。  その後、今川は、この後、デートするという2人と別れて会社に戻った。 東元と真浦のツーショットを目の当たりにしても尚、 2人が恋人同士ということに実感が持てない。 嫉妬よりも、驚きの方が大きかった。

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