みらいロボットの夢
エピソード3 第1話 ロボットを守る会

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   その日のうちに、今川は、東京へ舞い戻った。 自宅のあるタワーマンションの地下駐車場で、 タクシーを下車したところ、 スマートフォンの着信音が、けたたましい音を立てて鳴った。 あわてて、受信画面を確認すると、真浦からだった。  不在通知が4件。何度も、かけてきたらしい。 (いったい、何の用だろう? ) 「真浦か。何か用か? 」  今川は、ひと深呼吸した後、電話に出た。 「おつかれさまです」    真浦があいさつした。 「おつかれ。ちょうど良かった。 おまえに、頼みたいことがあったんだ。 詳細は、明日伝えるからよろしく」    今川は疲れていたこともあり、 用件だけ伝えて、早々に電話を切ろうとした。 「待ってください。明日ではおそいです。 至急、会社に来てください」    真浦がいつになく、切羽詰まった声で訴えた。 「何かあったのか? 」  今川が訊ねた。 「大内弁護士が、施設側に直談判したそうです。 何か、聞いていませんか? 」  真浦が冷静に言った。 「なんだって?!」 「なぜ、事前に話しておいてくださらなかったのですか?  ROBO太郎AZの弁護士なんて聞いていませんよ!」 「あれから音沙汰なかったから、 あきらめたものだと思って放っておいたのだが、 何考えてんだあの人は‥‥ 」 「とにかく、今すぐ、会社に来てください! 」 「明日でいいだろう? 疲れているんだ‥ 」 「今日、来ていただかなければダメなんです。 大内弁護士が今、オフィスに来ているんですから。 磯屋が、社長は不在だと何度も説明したのですが、 全く、聞く耳持たない様子で、社長室に居座っているんですよ。 何とかしてください! 」    真浦が怒ったように言った。 「わかったよ。すぐに行くよ」    今川は急いで、会社に向かった。  それから10分後。今川が会社に駆けつけると、 他のスタッフの姿はなく、磯屋と真浦が立ち話をしていた。 「社長。お休みではなかったのですか? 」    磯屋が、ふしぎそうな顔で訊ねた。 「真浦から、大内弁護士が来ていると聞いたが、 どこにいる? 」    今川が、落ち着かない様子で言った。 「社長室でお待ちです」    磯屋が答えた。 「そうか。わかった」 「社長。気が進まないのであれば、 自分が、代わりに応対しましょうか? 」 「いいや。その必要はない。あの人は、私に用があるのだから、 私でなければ納得しないだろう」    そーっと社長室のドアを開けると、 大内が、デスクの上に両足を投げ出して 椅子に座っているのが見えた。 「そちらは社長の席です。客人は、あちらへどうぞ」    今川は、応接セットを指差した。 「社長の椅子に、1度座ってみたかったのだ。 思ったより、座り心地は良くないね」  大内は悪びれる様子もなく、 椅子から立ち上がるとソファの上に勢い良く、腰をおろした。 「ところで、ご用件は何でしょうか? 」    今川は、向かい側のソファに腰を下ろすなり訊ねた。 「部下から、何も聞いていないのか? とぼけるなよ」  大内が、貧乏ゆすりをしながら答えた。 「こちらの了解も得ずに、施設側に接触してもらっては困ります。 ROBO太郎AZの事故の件はすでに、示談が成立して解決済みなんですよ」    今川が訴えた。 「あれから、何の音沙汰もないから、 何かあったかと思って、話を聞きに行ったんだ。 どちらの主張も聞かなければ、正しい判断は出来ないからな」    大内が言った。 「例の件でしたら、ウィルスを除去するロボットを新たに開発しているところです」    今川が冷静に告げた。 「それで、除去出来た後は、リサイクルにまわすのか? 」    大内が訊ねた。 「それは、除去ロボットが完成してからの話で、 現段階では何も決まっていません」    今川が答えた。 「今後、同じことが起きた場合の対策はどうだ? 」    大内が訊ねた。 「今回の件は、特殊なケースでしたので、 対応が、スムーズではなかったことは認めますよ」    今川がぶっきらぼうに言った。 「ロボットは、現代社会において 欠かせない労働力になっているにもかかわらず、 労働組合はないし、労災も認められていない。 現代の労働法は時代おくれだ」    大内が身を乗り出すと言った。 「相変わらず、おかしなことを言いますね」    今川が言った。 「女が社会進出する際も、 当時はありえない話と言われていたが、 今では、ふつうのことだ。もし、ロボットの労働組合が出来たら、 おたくは真っ先に訴えられそうだな」    大内がニヤリと笑うと言った。 「それは絶対ありません! 」    今川がきっぱりと否定した。 ロボットは、人間の手でつくり出されて管理されている。 ロボットが自発的に、何かをすることはありえない。 「コンピューターウィルスは、 テクノロジー社会の脅威だ。 もし、インフラ破壊が起きたら、都市機能は停止する。 原子力機関がサイバー攻撃を受ければ、核爆発が起きるかもしれん」    大内が神妙な面持ちで言った。 「縁もゆかりもないロボットを弁護して、 いったい、あなたに、何の得があるのですか?  マスコミに知れたら、あなたは、世間の笑いものですよ」    今川がため息交じりに言った。 「そんなことはない。 そのうち、時代の方が、僕に追いつくはずだ。 間違えなく、ロボットに関する訴訟はこの先増えるだろう」    大内が胸を張って言った。 「ロボットを弁護するなんて考える人。 そうそう、現れないと思いますけど‥ 」    今川が苦笑いして言った。 「ROBO太郎AZは、我々が引き取りますよ」    大内が告げた。 「おことわりします」    今川は、申し出を即座に辞退した。 「本気を示すためにも、契約書を作成しよう」    大内は、カバンの中からノート型パソコンを取り出すと、 あっという間に、契約書を完成させて今川に差し出した。 「この金額はなんですか? からかわないでください! 」    今川は、引き取り額の欄に 1千万円と記入されているのに驚き訊ねた。 故障したロボットの引き取り額としては、高過ぎる額だ。 「引き取らせてもらうのだから、 それ相応の金額を支払うのは当然だ」 「故障したロボットに、1千万というのは、 いくらなんでも、高過ぎますよ」 「それだけの価値があるってことさ。 まさか、手放すのが惜しくなったとか? 」    大内が訊ねた。 「そういうことではありません! 」    今川が強く言い返した。 「故障したロボットの大半は、スクラップ行きなのが現状だ。 リサイクルにまわされる場合も、他の製品に形を変えることが条件ときている。 それでは何の意味もないんだよ」    大内が低い声で言った。 「ロボットを引き取って、どうするつもりですか? 」 「ロボットを守る会は、メーカーから、 見放されたロボットを引き取り、 第二の人生を歩む手助けをしている。 特に、介護などのサービスロボットは需要がある」 「第2の人生とは考えましたね‥ 」 「今日のところは帰るが、 もし、ROBO太郎AZを持て余す事態になった時は、 強制的に、引き取らせていただくのでそのつもりで」    大内は鼻歌を歌いながら、社長室を出て行った。

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