みらいロボットの夢
エピソード10 第2話 ルーツ

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   2050年8月15日。日本の長野県の戸隠山麓に建つ 宇宙ステーションでは、 火星が地球に接近していることもあって、火星との通信を試みていた。  2035年、宇宙資源採集実験を行い ペルセウス流星群の外に広がる無数のレアメタルを採集して 地球に持ち帰ることに成功したことを機に、 日本政府は、宇宙資源開発に本格的に乗り出した。  ゼウスニアとユニバーサルバイオシンクタンクが 共同開発した宇宙ロボットは無事に、宇宙デビューを果たした。 ゼウスニアはこれを機に、宇宙開発事業に参入して大手企業へと成長した。 そして、ついに、昨年、長野の戸隠山麓に、政府公認の宇宙ステーションを建設したのだ。 「今度こそ、うまくいきますかね? 」    磯屋が訊ねた。 「うまくいくに決まっている。今夜は、火星が最も、地球に接近する。 火星との距離が縮まるから、交信がしやすくなるはずだ」    今川は成功を確信していた。 「もしかして、宇宙ステーションを建設したのは、この日のためですか? 」    真浦が訊ねた。 「そうだよ」    今川が答えた。 「社長の説は、間違っていると思います。 生命体は、火星には存在しません」  真浦が断言した。 「世の中には、科学では説明出来ないこともあるんだ。 彼が戻らなかったということは、火星にいる可能性が高いことになる」    今川が静かに反論した。 「火星は地球と環境が異なりますし、宇宙線の被曝の危険性が高いとして 火星移住計画は実現にはいたっていません。 2035年に探査が打ち切られていたということは、 その推測に、信ぴょう性があったからではないでしょうか」    真浦がすかさず、言い返した。 「いいや。生命体は存在する。 彼が、故郷の星が消滅したため火星に移住することになったと言っていた」    今川が言った。  2035年の火星有人飛行では、火星に向かう途中、 ペテルギウスが、巨大な大爆発を起こしたとして、 緊急避難することになり断念した。 それ以来、火星探査は、打ち切られた。 一方で、2039年に、ヘビつかい座に地球人と同等の生命体が存在することが明らかとなった。 「彼とは、いったい、誰なんですが? 」    真浦が訊ねた直後、火星にいるROBO太郎IVと 回線がつながったことを知らせるランプが点灯した。 今川は椅子に座り直すと、点滅するスイッチを順番に押した。 すると、真っ暗だった画面に、赤茶色の大地が映し出された。  今川は、宇宙ステーションを建設した後、 自社製作の火星探査ロボットROBO太郎Ⅳを 日本政府の認可を得て火星へ送っていた。 ROBO太郎Ⅳは、地球からの遠隔操作で動き回ることが出来る上、 故障した場合に自力で修理することが可能な自律型ロボットだ。 「ROBO太郎Ⅳ。応答せよ」    今川は、マイクに向かって命令を下した。 「こちらは、ROBO太郎Ⅳです」    突然、ロボットの顔が 画面いっぱいに映し出された。 「火星の様子を映してくれるか? 」    と今川が命じると、画面が180度回転して、 周囲の様子が映し出された。 今川は、ROBO太郎Ⅳの背後に一瞬、横切った黒い影を見逃さなかった。 「ROBO太郎Ⅳ。たった今、おまえの後ろに人影が見えた。 ズームアップしてくれ」    今川は慎重に告げた。 「了解」    ROBO太郎Ⅳの返事が聞こえるや否や、黒い影の一時停止画像が、 ズームアップされて、その正体が明らかになった。 「どうやら、人間のようですね」    磯屋が言った。 「そうみたいだな」    今川が腕を組むと言った。 「もしかして、社長が 捜していた方ではないですか? 」    磯屋が、今川に訊ねた。 「ROBO太郎Ⅳ。人間が 住んでいる痕跡はあるか? 」    磯屋が、マイクに向かって呼びかけた。 「少しお待ちください」    ROBO太郎Ⅳの声が聞こえた。 それから3秒後、現在の火星の様子を録画した画像が数枚送信されて来た。 今川は、記録映像の中に、 砂に半分埋まった宇宙船が映っていたのを発見した。 「窓に、人影か映っています」    磯屋が画面を指差すと言った。 「真浦。窓に映る顔をクリアに出来るか? 」    今川は、椅子から立ち上がると言った。 「やってみます」    真浦が、目に見ぬ速さでキーボードを打ち込むと、 ぼやけていた画面が、はっきりとしてきた。 「ウソだろ?!」    今川は、クリアになった顔を確認するなりのけぞった。 「誰なんですか? 」    磯屋が身を乗り出すと訊ねた。 「Dr.ナイジェルが、なぜ、火星にいるんだ? 」    今川は、見間違いかと思って何度も画面を見直したが、 どう見ても、Dr.ナイジェルだった。 「ROBO太郎Ⅳ。宇宙船の中を調べてくれるか? 」    今川は身を乗り出すと大声で言った。 「了解」    ROBO太郎Ⅳが返事をした。 「Dr.ナイジェルとは、いったい、誰なのですか? 」    真浦が、今川に訊ねた。 「鬼才の医者だ」    今川がひと呼吸おいて答えた。 一言では言い表せないし、言葉選びにも気を遣う。 「鬼才の医者っていうのは、どういう意味ですか? 」    真浦がめずらしく、食い下がった。 真浦が、他人に興味を示すのはめずらしい。 「腕はそれこそ一流なのだが、彼が、これまで行った医療行為は、 倫理や人権を無視した自分勝手なものだった。 2035年、彼は、日本が主導した火星有人飛行計画を後押しした後、 忽然と姿を消したんだ」    今川が答えた。  Dr.ナイジェルには、まだまだ、聞きたいことが山ほどあったのに、 何も告げずに姿を消してしまった。 探偵を雇い捜したこともあったが、とうとう、見つけることが出来なかった。 「Dr.ナイジェルも、2035年の火星有人飛行に参加したのですか? 」    真浦が、今川に訊ねた。 「いいや、そんなはずはない」    今川はきっぱりと否定した。  今川は、純粋に、 医師として患者の治療に専念したいとして、 エイ・ハイロンの元から去ったとされる あのDr.ナイジェルが、患者を見捨ててまで、 火星へ行くはずはないと信じていた。 「とにかく、ROBO太郎Ⅳが発見した人物と コンタクトを取りましょう。 何だかの事情を知っているかもしれません」    磯屋が言った。  磯屋は、入社当初は、 学生気分が抜けておらず頼りなかったが、 副社長に就任してから、しっかりしてきた。 今川の不在時は、磯屋が、 代理を務めることが増えたからかもしれない。  その後、ROBO太郎Ⅳは火星中を歩き回り探索した後、 宇宙船にたどり着いた。 「ドアをノックしてみろ」    今川は、ドキドキが止まらなかった。 もしかしたら、大発見になるかもしれない。 これで、JAXAへの面目は保てる。 「了解」    ROBO太郎Ⅳは、 宇宙船のタラップを登ると ドアを数回ノックした。 数分待ったが、中から返答はなかった。 「ドアを開けて、中に入るんだ」    今川は思わず、声が裏返った。  その直後、真浦の咳払いが聞こえた。 近くで作業していたスタッフが、 今川の背後に集まり、にぎやかになった。 「了解」    ROBO太郎Ⅳが、 ドアのノブに手をかけると、 鍵がかかっていなかったらしくドアが開いた。 ROBO太郎Ⅳの目を通して、 宇宙船の中の様子が、画面に映し出された。 「どこかに、隠れているかもしれない。用心して進むんだ」    気がつくと、磯屋が隣でさけんでいた。 「了解」    ROBO太郎Ⅳは、何者かが、 さっきまでいたとする痕跡を次々と発見した。 椅子の背もたれに無造作にかけられた よれよれの白衣を見るなり、 今川は思わず、「あ」と小声を発した。 それは間違いなく、 Dr.ナイジェルが着ていた白衣だった。 「いったい、どこに行ったのでしょうか? 」    磯屋が、今川に訊ねた。 「ROBO太郎Ⅳの存在を確認して、逃げ回っているのかもしれない」    今川は、落胆の色を隠せなかった。 「社長。そろそろ、 ROBO太郎Ⅳの充電時間です」    真浦が冷静に告げた。 「わかった。いったん、回線を切るぞ」    今川は、真浦に向かって命じた。 「ROBO太郎Ⅳ。宇宙船の外に出て待機だ」 「了解。充電に入ります」    回線が切れると同時に、画面が暗くなった。 「JAXAに連絡しますか? 」    真浦が、今川に訊ねた。 「まだ、早い。確信が持ててからでもおそくはない」    今川が答えた。 「一般人が、火星に行くことは禁止されています。 ハッカーのいたずら映像の可能性もあります」    真浦が言った。 「とんでもないことになりましたね」    磯屋が、頭をかきながら言った。 「それにしても、誰かの協力がなければ、 火星へ行くことは不可能だ。 Dr.ナイジェルに、協力した人間がいるはずだ」    今川は、以前、Dr.ナイジェルを捜す際に、 探偵事務所からあがってきた資料を会社に連絡して送らせた。 「この弥勒ボートとは、どんな研究所なのでしょうか? 」    真浦が、今川から資料の一部を取り上げると訊ねた。  Dr.ナイジェルの所属する研究所という項目は、 出来れば、他人には見せたくなくて、 ページを飛ばそうとしたが、真浦が、それを目ざとく見つけたのだ。 「真浦さん。社長が、知るはずがないじゃないですか」    磯屋が苦笑いしながら言った。 「2011年。謎の飛行物体が、経済的排他水域にある無人島に墜落した。 FBIは、宇宙船内から、ヒト胚が入ったカプセルを発見した。 弥勒ボートは、Dr.ナイジェルが、 そのヒト胚を使って、人間の女性の子宮を借り腹とした 体外受精を試みて誕生させた生命体を スターチャイルドと名づけたらしい」    今川は、これ以上、隠しておけないとして 知っていることすべて、2人に話した。 長年、一緒にいる2人ならば、理解してくれると思った。 「SF映画みたいな話が、現実にあるのですね」    磯屋がぽつりと言った。 バカにしているわけではなく、正直な感想だろう。 「当時は、宇宙人だと思われたのが、 実は、未来から来た人間だったというわけさ」    今川が言った。 それ以上、2人は、何も聞いてこなかったため話はとぎれた。    その日の夜、再度、火星にいるROBO太郎Ⅳの交信を試みたが、 砂嵐が発生して、何も見えなかった。  

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