みらいロボットの夢
エピソード4 第1話 ロボットの墓場

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   東元と電話で話をしてから、 3週間が経とうとしていた。 あれから、連絡が来ないことから考えると、 東元は、フォルダーの内容にさほど関心がなかったようだ。 「社長。去年、完成したロボット部品工場の視察に行きませんか? 」  磯屋が、ため息を連発する今川を見兼ねて外へ誘い出した。 「そう言えば、完成してから、1度も視察していなかった。 今のところ、順調にいっているようだが、 たまには、下請けの現場の声を生で聞くのも悪くはないな」    今川が答えた。  ゼウスニアには、優秀なスタッフがそろっているが、 ロボット製作に必要なパーツの生産は、下請け工場に任せていた。  工場のあるC県に入った時だった。 「社長。今、何を考えていましたか? 」    磯屋が、今川の顔をのぞき込むようにして訊ねた。 「別に何も」    今川は何でもない風をよそおったが、 本当は、数日前から、MIMIの様子がどこか変なことが気になっていた。 ヒューマノイドに感情がないことは、 頭ではわかっているつもりだが、 毎日、一緒にいると、人間みたいに感じることがある。 必要なデータは取れたし、 MIMIとの同居生活も、そろそろ潮時かもしれない。 これ以上、一緒にいたらおかしな感情が芽生えそうだ。 「時々、社長が、何をお考えなのかわからなくなる時があります」    磯屋が静かに告げた。 「何だよ、いきなり」    今川が言った。  何を考えているのかわからないと言われて、 何と答えたら良いのか困った。 「たとえば、試作品のヒューマノイドを自宅に置くとか。 社長自ら、実験台にならずとも、良いのではないかと思うのですが‥‥ 」    磯屋が言った。  磯屋の言う通り、社長自らしゃしゃり出ることはない。 しかし、今回ばかりは、ゆずれなかった。 どうしても、自分で試したかった。 「なんだ、何か不満でもあるのか? 」    今川が訊ねた。 磯屋が面と向かって、意見してくるなんてめったにない。 今川は動揺した。 「めっそうもありません。 自分は、社長のことが心配なだけです。 社長がますます、人間離れしてしまうのではないかと気が気でなりません」    磯屋が神妙な面持ちで告げた。  人間離れと聞いて、今川はグサッときた。 最近、イライラしているのは、仕事が忙しいせいではない。 MIMIと接している時の感情が、何なのかわからなかったからだ。 「MIMIは、私のデータに基づいてプログラミングされているから、 私の欲求を察知して行動する。 人間のように、相手を思いやる必要がなくなる。 それが、いつしか、心地良くなっていたのかもしれない」    今川が素直に言った。 人間らしい感情を捨てたら、残るのは野生的な欲望しかない。 それはある意味人間離れしたことと同じだ。 「まさにおっしゃる通りです。自分も、その点が気になったのです。 MIMIが完成した時は、 完璧なヒューマノイドが出来たと思ったのですが浅はかでした。 何でも言う通りになるなんて、よく考えたら、気持ちが悪いし不自然です」    磯屋が明るい声で言った。 「それより、工場らしき建物が全然、見えて来ないじゃないか?  道はあっているのだろうな? 」    今川は、それとなく話題を変えた。 「はい。大丈夫だと思います」    磯屋が言った。 「おい、雨まで降って来そうだぜ。本当に、大丈夫なのだろうな? 」    今川が言った。 突然、空に、黒い雲が押し寄せて辺りが暗くなってきた。  今川は昔から、雨が降る前のどんよりとした雰囲気が好きではない。 うっすら記憶に残る孤児院に連れられた時のことを思い出すからだ。 あの時は、心細くて哀しかったことを覚えている。   「心配なさらずとも、そのうち着きますから」    磯屋が言った。 「本当に、この道で間違えないか? 」    今川は再度、念を押した。 どう考えても、山に登っているようにしか思えない。 「はい」    磯屋が前を向いたまま返事した。 「こんな場所に、工場なんて本当にあるのか? 」    今川が車窓を眺めながら言った。 どこからともなく、カッコウのなく声が聞こえた。 のどかな雰囲気がした。 「あれじゃないですか? 」    磯屋が前方を指差して言った。 磯屋の指差す方向に、工場のえんとつが見えた。 「良かった。道に迷ったのかと思ったぜ」    今川が言った。 「あれは、何でしょうか? 」    磯屋が、何かに気づいて声を上げた。 「もしかして、山火事か? 」    今川は、工場の手前の森の上に 黒煙が立ち昇っていることに気づいた。 「引き返しますか? 」    磯屋が訊ねた。 「いいや。このまま放置したら、山火事になる。 見過ごすわけにはいかない。確かめに行こう」    今川は慣れた手つきで、トランクの中からヘルメットを取り出した。 「社長に、もしものことがあったら大変です。自分が見て来ます」    磯屋があわてて、今川を引き止めた。 「私が行く。10分経っても戻って来なかったら通報してくれ」    今川は急いで、森の中へ入った。 火災現場に到着すると、 出火元と思われる穴の底から、黒煙が立ち込めていた。 おそるおそる穴の底をのぞくと、幾重にも、折り重なった 鉄くずが勢い良く燃え盛っているのが見えた。 辺りには、有毒ガスが立ち込めており、 1秒たりとも、とどまっていたくないと思った。 急いで、引き返そうとした矢先、 どこからともなく、か細い声が聞こえた。 周囲を見回したが、それらしき人影は、 どこにも見当たらなかったことから、 空耳かと思い、急いでその場から立ち去った。 「どうでしたか? 」    森を出た途端、磯屋が駆け寄って来て訊ねた。 「出火元は、森の奥に掘られていた穴の中だ。 穴の中に、産業廃棄物が不法投棄されていた。 おそらく、取り外し忘れたバッテリーが、自然発火したのだろう。 早く消さないと、周囲に燃え移るおそれがある」    今川が答えた。  通報から数分後。 消防車が現場に到着して、消火活動が行われた。 その後、死傷者を出さず、無事に30分後に鎮火した。 しかし、周辺に有毒ガスが発生したおそれがあるとして、、 周辺住民が一時的に避難する騒ぎになった。  

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