みらいロボットの夢
エピソード8 第2話 フィクサー登場!

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 今川はトイレから戻ろうとした時、意外な人物を目撃した。 ブランドスーツを着こなしたDr.ナイジェルが強面のSPに囲まれながら、 庭をはさんだ向かい側の座敷へ入ろうとしていたのだ。 「あれ、凪島なぎしま教授だ! 」    背後から、東元の驚いた声が聞こえたことから、 ふり返ると、東元が、障子を半分開けると顔だけ外に出していた。 「あの人は、凪島教授なのですか? 」    今川は驚きのあまり声が裏返った。  どこからどうみても、Dr.ナイジェルだ。 そんな日本人みたいな名前似合わないと思った。 「凪島教授ですよ。あんな有名人を見間違えるはずはありません」    東元が断言した。 「どんな分野の教授なのですか?  もしかして、遺伝子研究なんてことはありませんよね? 」    今川が訊ねた。 「かつては、ゲノム編集の魔術師と呼ばれた名医でした。 しかし、今から15年前、デザイナーベイビーを誕生させた容疑で有罪になっています。 出所したとは知りませんでした」    東元が小声で答えた。 「いったい、誰と会っているのだろう? 」    今川が言った。 「今川社長。そろそろ、おいとましませんと、明日、商談がN県でありまして、 朝早くの新幹線で、東京を発たなくてはならないのです」    東元が、腕時計を見ながら言った。 「そうですか。ではまた、近い内、会いましょう」 「それまでお元気で」    2人は料亭の前で別れた。 今川はどうしても、凪島教授のことが気になり、 東元を見送った後、料亭の中へ引き返した。 「おい、そこで、何をしている? 」    今川が、凪島教授がいる座敷の前で中の様子をうかがっていたところ、 背中をバンバンと強くたたかれたことから、  今川がゆっくりとふり返ると、U・ツゥバイコフが仁王立ちしていた。 「おまえはロシアの暴れ牛!? 」 「そのあだ名をこの場で出すな! いいから、こっちへ来い」  U・ツゥバイコフに引きずられるようにして、 今川は、黒塗りベンツの前まで連れて来られた後、後部座席に乗るよう指示された。 後部座席は、スモークガラスで中が見えない。 ドアが自動的に開いて、今川は強引に、後部座席へ押し込まれた。 「あなたは!」    今川は、後部座席の先客を見るなり驚きの声を上げた。  この人物こそ、政界を裏で操っているとされる 永田町の怪人だ。栄龍二。本名はエイ・ハイロン。 祖父は、旧満州の日本人の軍人、 祖母は、中国人女性という日本と中国のクォーター。 日本で貿易商として成功した父と日本の大物政治家の養女の母に育てられて、 T大学に現役合格。 外資系の大企業幹部を経て経済産業省に入省後、 経済産業省事務次官、内閣府官房事務官と異例の速さで大出世。 経済産業省を退職後は、市議会議員を経て衆議院議員となる。 選挙は負け知らずで、防衛大臣、外務大臣、幹事長、官房長官を歴任。現政権の重鎮として、 時の首相のアドバイザー役を務めている。 「おぬしとは、初めてじゃな」    エイ・ハイロンが、サングラスを外すと言った。  今川は、あまりの威圧感に一瞬、意識が遠のいた。 さすが、永田町の怪人と呼ばれるだけあると思った。 「はい。今川空雅と申します」    今川はそう言うと頭を下げた。 「その辺を見て来ます」    U・ツゥバイコフがそう告げると、 足早にその場から立ち去った。 「おぬしは、凪島を見てずいぶんと、驚いておったようじゃが、 もしや、あやつの正体を承知しておるか? 」 「正体といいますと? 」 「とぼけるな。おぬしが、あやつが誕生させたと豪語する宇宙人であることは百も承知じゃ」    エイ・ハイロンが、今川の肩をつかむと告げた。 「わかりました。正直に申し上げます。 あの人は、Dr.ナイジェルではないですか?  今、あなたが言ったことが、 真実であるとすれば、私の生みの親です」    今川が言った。 「そうか、やっぱり。本当に存在したのか。 実は、かまをかけたのじゃ。あやつのことをいまいち、信用できんのでのう」    エイ・ハイロンがそう言うと、カッカッカと笑った。 「もしかして、Dr.ナイジェルは、あなたと会っていたのですか? 」    今川が訊ねた。 「そうじゃよ。明日、地方で会合があるから、 わしは先に出て来たが、あやつは、わしが、紹介した男と会食中じゃ」    エイ・ハイロンが答えた。 「あの、知人が言っていたのですが、あの人は、有罪になったと聞きました。 犯罪者と会っても大丈夫なのですか? 」    今川が言った。 「そんなこともあったかのう。有罪にはなったが、わしが、あやつを釈放させた。 条件として、あやつの能力を金で買ったのじゃ。 律儀にも、あやつは、わしの言いつけを守り、これまで、忠実に仕えて来た。 その褒美として、わしが、目をかけておる男と引き合わせたというわけじゃ」    エイ・ハイロンが言った。 「能力を買ったというのは、いったい、どういうわけですか? 」    今川は思わず、身を乗り出して訊ねた。 「そう、興奮するな。あやつの容疑は知っているな? あやつがやったことは、倫理に反することで、この国では禁じられておる。 わしはこれでも、かつては、この国のため身を粉にして働いた。 じゃが、気づいたら、からだはボロボロ。 主治医から、残りの人生を謳歌する余力はないと宣告を受けた。 そんな時、あやつの存在を知った。 わしが国会議員になった最大の理由である この国の軍事力を大国相当レベルにするためには、あやつの能力が必要だった」    エイ・ハイロンが能弁に語った。 「あの、そのくらいにしておいた方が‥‥ 。 世の中には、知らなくとも良いことがあると言いますし‥ 」    今川は急にこわくなって、エイ・ハイロンの話を止めようとした。 「中国が、ゲノム編集を使いビックビジネスをしかけて、 東南アジア全土を支配しようとしていると聞き知ったわしは、 巨額の資金を援助していたとある遺伝子学者に 長寿の薬の開発を命じたが、あろうことか、途中で気が変わったとして降りよった。 同じころ、凪島が、Dr.ナイジェルという偽名を使い、 アメリカの製薬会社と密約を結んで、秘密実験をしていたことを知りコンタクトを取った。 ところが、当時、警視庁捜査官たちの間で スネークと呼ばれていた生珠銀河にかぎつけられて、 凪島は御用となったというわけじゃ」 「つまり、Dr.ナイジェルは、あなたのせいで有罪になり、 あなたの手で釈放させたというわけですね。あなたは、弥勒ボートとつながりが? 」 「弥勒ボートとな?  そんなちんけな研究所などは、偉大な夢を叶えるためだけに利用したに過ぎん」  「宇宙人のことは、どこで知ったのですか? 」 「凪島が自慢しておったのじゃ」 「そうですか。仲間の危機を招く秘密をあの人はこともあろうに、 べらべらと部外者にしゃべっていたのですね」    今川は、Dr.ナイジェルの浅はかな行動に憤りを感じた。 (あの人の勝手な言動で、どれだけの人たちが、危険な目に遭うかしれない) 「ひとつ、警告して良いかね? 」    エイ・ハイロンが上目遣いで告げた。 「はい、どうぞ」    今川が告げた。 「今、話したことを他言してはならんぞ。 さもなければ、おぬしの命は保障できん。それと、もっとうまく立ち回れ。 利用されるのではなく、利用するつもりで、何事にも挑みなさい」 「承知しました」 「外に、タクシーを待たせてある。 それに乗って帰るが良い」    今川は、エイ・ハイロンに追い立てられる形でベンツから降りると、 料亭の前に停まっていたタクシーに乗り込んだ。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません