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「頭を上げてください。なんでこんなことをしたかだけ、教えてもらえればいいです」 「……ルキさんが花束とケーキ持って歩いていくから、女とデートすんのかなって思って……ルキさんの彼女とか見てみたくて」  まさか墓参りだとは、と玲が呟くと琥太郎と潔子も同じタイミングで頷く。ルキは呆れたような溜息をついて、「まったく」と零す。  墓石の前に戻ると、ルキは慣れた手つきで柄杓の水を墓石の上からそっと流す。白い布で墓石を磨き上げると、そこに置かれた桃色のマグカップの中に炭酸ジュースを注いだ。マグカップは所々茶色いシミがついており、大分年季が入ったものだった。  花束の包装紙を解いて、プラスチック製の花たての中に丁寧に供える。墓といえば普通は菊だとかあとは榊を供えるのが一般的ではあるが、そういったものは一本もない。鮮やかなオレンジ色のマーガレットやかすみ草の花束で、供花というよりはプレゼントのようだ。 「ルキさん……誰ん墓か聞いてもよかね?」 「ああ、妹の墓です……月命日はこうやって墓参りをしているんですよ」  潔子はルキの隣に並び、両手を合わせた。その後ろで琥太郎と玲も同じことをする。三人をルキはじっと見てから、また墓石に向き直り同じように手を合わせる。 「おいくつで亡くなられたんですか?」 「十七歳ですね」 「……若くで亡くなられたんですね」 「そうですねえ。一番楽しい時期だっただろうけど」  ルキがケーキ屋の箱を開けると、中には大きなシュークリームがひとつ入っていた。あのケーキ屋は長年続く街の馴染みの店で、今でも人気がある。特にシュークリームは開店当時から変わらない味で、卵とバニラの風味が絶妙のバランスを長年保ち続けていると評判だ。潔子も会社勤めをしていた頃には、自分へのご褒美としてときどき食べていた。  ルキの妹もこのシュークリームが好きで、レモン味の炭酸ジュースとよく合うんだと言いながら食べていた──ルキは目を細めながらそう話した。だから月命日にはこうやってジュースとシュークリームを供える。  花はいつも適当に選んでいるつもりだけど、どうしても見た目が可愛らしいものが目に入って結局マーガレットばかり買ってしまうようになった。 「いつもひとりで参るので、シュークリームを自分で食べるのが辛かったんですが、今年はその必要はなさそうですね。潔子さん、よかったら食べてください」 「えっ、いいんですか」 「ええ。僕、甘いものは苦手なので」  どうぞ、と箱ごと渡され、潔子はシュークリームを取り出す。片手で食べようとすると、生地の中でクリームが動いて上手く食べられない。玲が箱を預かってくれたので、両手で支えて思いきりかぶりつく。  とろりと口の中に広がるクリームと生地のバターの香り。久しぶりのその味に潔子は思わずうーん、と感嘆の声を上げる。 「……僕が無理矢理口に押しこむのを見せられるよりは、きっと妹も喜ぶでしょう」 「ふ……ふみまへん……」 「食べ終わったら帰りましょうか。あっ、玲くんそこのゴミ持ってください」 「え、俺っすか?」 「人のことつけておいて、断る気ですか?」  ルキの目がほんの一瞬、鋭くなる。琥太郎と玲は言葉を飲み込み、いそいそと周りのゴミをかき集めた。

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