作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

*  そういうわけで焼肉店『しんげつ』を皆で手伝っている。  月曜日の昼間だというのに、この店はランチの客で溢れている。ビビンバ丼が人気メニューらしくどんどんと注文が入る。しかも丼ものは食べるのに時間をあまり要さないせいか客の回転率も高い。  調理は作り置きのものもありはするが、基本的に玲と潔子で担当する。パライソの平日ランチタイムは比較的主婦が多いが、焼肉店というだけあってこちらはサラリーマンなどの男性客が多い。客の入り方が違うと、キッチンの中も雰囲気が変わる。  とにかく肉を焼いて、焼いて、焼きまくる。玲が調理をして、潔子がさっさと盛りつけて、汐乃とルキが運んでいく。 「僕が運んでいくとお客さんが残念そうな顔するんですよ。汐乃さんに運ばれた方が嬉しいっぽい」 「そりゃあ、男性を惑わすサキュバスだもの。なにも感じてもらえなかったら悲しいわ」  ランチタイムを終えて四人でお茶を飲んでいる時にルキと汐乃がそんな話をしていた。 「それにしても、潔子ちゃんと玲ちゃん、息ぴったりじゃない。さすがね。熟年の夫婦のようだわ」 「は、はあ? やめてくださいよ、こんな妖怪ケッペキと夫婦だなんて」 「比喩表現ですよ。それだけ仕事を褒めてくれてるんですから、ここはお礼を言うところですよ」  潔子が冷静に諭すと、玲は顔を赤らめてから風船みたいに頬を膨らませる。歳下に諭されるのが不満だったのか、別の感情があるのか、潔子は知らぬところだ。ふたりの様子を見ながら汐乃が目と口を三日月型にする。ルキも同じような顔をしていた。 「こほん……夜はもっと混むんすよね。ついていけるかな……夕方からは汐乃さん抜けるし大丈夫かな」 「ごめんね。夕方からお客さんが来るから……でも、夜からは希良ちゃんが来るわ」 「希良ちゃん?」  潔子が口を挟むと汐乃とルキが潔子に目を向け、それからじろりと玲を見る。玲はぽかんとしており、そんな目で見られる覚えはないといった顔をしている。 「やだ、玲ちゃん紹介してないの?」 「なんで俺がそんなこと」 「はあ……そこはちゃんとやらないとですよ」 「ジムやってる妖怪がいるってのは言いましたよ。挨拶行ってないのはケッペキっすよ」  玲が言うのももっともだ。本当は引っ越してきた時にジムの店主に挨拶に行かねばと思っていたが、忙しかったりタイミングが合わなかったりで結局会えずじまいだった。  ジムの店主は夜しか起きていない、という情報しか潔子は得られていなかった。 「希良ちゃんはね、吸血鬼の男の子なのよ。まあ、血はあまり吸わないから安心してね」 「吸血鬼なのにジムを経営してるんですか?」  潔子が思う吸血鬼は、肌が真っ白で夜にしか活動ができなくて、そして細身で不健康なイメージだ。汗をかき健康を維持する施設とはとても結びつかない。  そんな潔子を察してか、ルキが口元に三日月型の笑みを浮かべていた。 「そうなんです。吸血鬼って夜しか活動できなくて不健康な生活になりがちなんですよ。それでね、健康を心がけていたら健康オタク化して、ジムを経営するまでになったってわけです」  趣味が高じて商売にしてしまうなんて、羨ましいと潔子は思った。それだけ夢中になれるものがあるなんて、きっと幸せな人生なんだろう、と。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません