作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

「ふむふむ。筋肉量がちょっと少ないかな。筋トレをメインにして頑張っていこう!」 「よろしくお願いします」  先日、玲から顔が丸くなったと言われ潔子はそれを密かに気にしていた。確かに鏡の中の自分はフェイスラインがだらしなくなっている気がしている。  ──そんなに暴食してないのにな。やっぱり運動不足か。  そういうわけで、希良が経営するジム『サルーテ』の門を叩いた。中はパライソの店内と同じ広さだが、晴天の中にいるようなブルーの壁紙に木目柄のクッションマットを敷き詰めた部屋は、開放的な雰囲気だ。  その中にトレーニング器具が三つ、ランニングマシンが二つ置いてある。更衣室は部屋の隅に壁で間仕切りをして狭いながらもしっかりと男女別になっている。  そして、ここは夜の八時から二時まで営業している。店主の希良は吸血鬼で夜しか活動ができないからだ。日が落ち始める頃から目を覚まして開店する。  利用客は比較的男性が多いが、女性もちらほらいる。  従業員はいない。希良ひとりで利用者の対応をしていて、常に駆け回っていた。  希良は潔子より一つ歳上で実は三十歳に近いのだが、見た目の幼さとその天真爛漫なキャラクターのおかげか若く見える。高校生の制服を着ていても違和感がないのではと潔子は思っている。 「潔子さん、まずはホバーを三十秒やってみよう!」 「ホバー?」 「うん。マットに肘をついて後ろに足を伸ばして寝てみて。これ、今日下ろしたてのヨガマットだから安心して寝ていいよ」  希良には潔子の病気のことを事前に話していた。それでも悲壮な様子などまったく見せずに、屈託のない笑顔で「フォローするね!」と言った。 「んで、肘と爪先を支点にして上半身を浮かして」 「はい……うっ、きっつ……!」 「ちょっとお尻が浮いてる。身体に触れてもいい?」 「はっ、はいっ……!」  希良の手が潔子の腰の辺りに触れて、ぐっと押さえられるとちょうど胃のあたりを思いきりつねられたような痛みが走る。いたーっ、と声を上げると希良がけらけらと笑う。これが腹筋に効くと希良が言うものの、潔子は三十秒ともたずにマットの上に倒れ込んだ。自分の腹筋の弱さにほとほと呆れる。  あまりの痛みに身体に触れられたことがどうでもよくなっていて、それに気づいたのはサルーテを出たときだった。 * 「潔子ちゃん、頑張ってるのね」 「へへへ、まだ二回しか行ってないですけど」  潔子がサルーテに通いだして、半月が経とうとしていた。店休日の月曜日だけ通うことにしている。  希良の勧めでお風呂上がりにはきちんと毎日ストレッチをして、寝る前には腹式呼吸をする生活を続けたところ身体の調子が本当によくなってきた。心なしかお腹周りもすっきりしてきて、やはり運動は必要だと身をもって感じる。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません