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 ──どれだけやんちゃだったんだろうか……。  突っ込みたい気持ちをどうにか抑え込み、潔子はカウンターの裏に走る。金庫を開けてから今月の家賃が入った封筒を持って、そのままルキに渡す。今月の売上表も中に入っており、ルキはそれを取り出して満足そうに眺めていた。 「ほほお、パライソは売り上げ上々ですね。うんうん、パライソのインスタも好評のようですし、いい傾向です。潔子さんを雇って正解でした。ネッ、玲くん」  急に話を振られた玲は身体を預けていた背もたれに不自然な力をかけた。椅子の脚が一瞬浮いて、床とぶつかる音がする。それから慌てた様子で「おう」とだけ返した。  客が増えていることは潔子も感じている。忙しくもあるが、充実した日々を送っている。最近はゴム手袋を替える頻度もぐんと減ったし、手を洗いたくなる衝動も大分おさまってきた。安定剤を少し弱いものに変えてみようと、心療内科の主治医も嬉しそうに提案してくれた。  このパライソが確実に潔子の背中を押してくれる。 「そう言ってもらえて嬉しいです」 「本当のことを言ったまでですよ。潔子さんがいてくれてよかった」  この穏やかな空気を読むことなく、玲の声が割って入った。 「あの、ルキさん。昔妖怪退治してたってマジっすか?」 「ん? ええ、マジです」 「なんで辞めたんすか?」 「いやあ、あれ身体に堪える割には見返りがなくて、とてもとても長く続けられるような仕事ではありませんから。それに今は昔の汐乃さんや琥太郎さんみたいに悪さをする妖怪もいませんしね」 「ルキさん……それはもう触れんでほしか……」  潔子の勝手なイメージだが、そういう非現実的な仕事をする者は己の信念の元に戦っているものだとばかり思っていた。まるでブラック企業に勤める社員のような言い草に、やや肩透かしを食らってしまった。他の四人も潔子と同じだったらしく、揃ってぽかんと口を開けている。 「じゃあ、どうして妖怪集めて商売なんてさせてるんですか?」 「妖怪は人と違う感性をお持ちの方が多いし、儲かりそうな気がしたからです」 「すげえな……さすが妖怪銭ゲバだ……」 「銭ゲバ?」  ルキの目が一瞬だけ猛禽類のように鋭くなったが、すぐにいつもの掴みどころのない笑みに戻る。  ──本当に元ヤンかもしれないな、この人……。  潔子の背中につっと冷たい汗が伝った。

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