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*  目標リストを眺めている潔子を後ろから抱きしめて、その肩に顔を乗せる。このくらいのスキンシップはもう問題がないようで、潔子も拒否を示すこともない。しかしなかなか次の目標に進めずに、五月を終えようとしていた。  さすがに潔子も次の目標に進めないことに焦りを感じていたようで、リストを見る度に怪訝な顔をしていた。 「あの、玲さん……キスしてもいいですか?」  潔子は潤んだ目でそう言った。その申し出に食いつきたいほどだったが、玲は素直に頷けなかった。焦りからそういうことをしても、目標達成にはならない。  潔子の主治医から潔子を焦らせないことを懇々と言い聞かされており、心のバランスが崩れると再発する可能性もあることを忘れてはならない。  今の潔子は医者の目から見てもとてもいい状況らしい。確かに頻繁に手を洗ったりだとか、お風呂に異常に長く入ったりだとかをしなくなった。  玲とは抱きあうまでのスキンシップをなんの抵抗もなくするようになっているし、玲の部屋で一日を過ごすこともできている。玲の部屋でシャワーを浴びて、いつもと違うシャンプーを使うこともできた。  ジェンガの積み木を引き抜くように、ひとつ間違えばそれが一気に崩れることもある。だからこそ玲は慎重になっている。 「……お前、焦ってんだろ。そういうのだめだって言われたじゃん。焦らない、焦らない、焦らないって医者に言われてんだろ」 「……焦らない、慌てない、諦めない、ですね」 「そうそう、それ。キスできなくても、他のところで楽しむからいいよ別に」  そう言ってシャツの上から潔子の胸を揉んだら、潔子の首筋が一気に赤くなった。んっ、とピアノの鍵盤を短く鳴らしたような上ずった声を漏らして、潔子は拗ねたような目で玲を見る。  ──あー……キスしたい……。でも、まだ少し。 「玲さん、やっぱキスして」 「あ? だーかーら……」 「して」  潔子は懇願するような目を向ける。なにか大きな決意を固めたように、唇はぐっと噛み締められていた。  玲は手元のリストをちらりと見て、ゆっくりと潔子の頬に顔を寄せる。キスというよりは、ただ唇の表面で頬を撫でるだけのようではあったもののそれだけで心が満たされていった。  リストにはないけど、そのまま首筋にも同じように触れた。いつも自分が使っているシャンプーとボディソープの香りのはずなのに、やけに甘ったるく感じてしまう。 「……次は、潔子から。できたら目標クリアだな」  潔子はこっくりと頷いてゆっくりと玲との距離を縮めようとしたが、あっ、と声を漏らす。それから玲の目に両手を乗せた。かさついた指先が玲のまぶたを軽く引っかいた。 「なんだよ?」 「なんか、恥ずかしいので」 「……お前の恥ずかしいポイントはいまいちよくわかんねえ」  潔子の吐息は温くて心地がよかった。柔らかい唇の感触も、こそばゆい。一方で、ぞくりと肌を這うなにかの存在に気づいて潔子から少しだけ距離を置く。不安そうな目を向けたまま、潔子の口元にはほんの少し隙間ができている。そこを埋めてしまいたくなって、玲は自分が怖くなった。  その積み木を抜いてもいいのか、と。思考を助ける理性も少しずつ削られていく。 「ていうか、いつまで胸を触ってるんですか」 「いやあ、手持ち無沙汰でな。揉むと幸福度が上がるらしいぞ」 「……変態……」

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