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「で、とりあえずお友達からってことになったわ」  紺野からの申し出を汐乃は受け入れた。好きですとは言ったものの、互いに知らないことが多すぎるのでまずはそこからと紺野から話をされてしまい、汐乃は言い返せなかった。  据え膳という言葉を知らないのか──とも思ったが、そう伝えたところで紺野が揺らぐ気もしない。どうせおいおい紺野を捕食する約束をしているようなものだし、それがダメになったとしてもまた別の男を食えばいい。とりあえず汐乃はそう考えることにした。  パライソでルキと琥太郎、それから希良に報告すると三人は揃って「おお」と間抜けな声を上げた。バカにされているような気もしたが、気にしないふりをして運ばれてきたキールをぐいと飲む。舌に乗っかる甘みをいつもより強く感じながら、もう一杯欲しくなった。  側で潔子も聞いていたらしく、目元に笑みを浮かべながら「おめでとうございます」と言ってきた。 「……最近、雰囲気が変わったなって思ってたんですよね」 「そうかしら?」 「うーん……なんていうか……優しくなったというか。柔らかくなったというか」 「あらやだ。私、そんなにきつい女に見えてたのかしら」  潔子は焦ったように首を横に振る。その姿は水浴び後の犬のようで、滑稽だ。情けなく下がった潔子の眉毛を見ながら、「冗談よ」とローズピンクの唇を動かした。  理性のかたまりのような紺野と、二回デートをした。一回目は隠れ家的なフレンチレストランで、黙々と食事をした。並べられたフォークとナイフに戸惑う紺野の姿を見ながら、弱点を見つけた気がして汐乃は嬉しくなった。外側から順番に使っていくことを教えたら、姿勢を正しまるで武道の試合の前のように頭を下げる。  二度目は映画だった。恋愛映画にでも連れていかれると思いきや、紺野は見る映画を決めてこなかった。汐乃がどんな映画を見るのか知りたかったらしい。なので、恋愛要素など皆無のアクションホラー映画にしたら、紺野は安心したように微笑んでいた。その理由を問うと、「恋愛映画だと寝てしまうかもしれないから」らしい。 「なんかつかみどころがなくて、わけわからないわ。さっさと食べちゃいたい」 「汐乃さんとお似合いだと思うよ、僕は。紺野さんって寡黙だし、真面目だし」 「はい……私もすごく素敵な男性だと思います。誠実そうで」 「じっくりお好みの食材に育てていくのも一興かもしれないですよ。真面目な人間は染まりやすいし」 「ルキさん、怖かこと言わんでください」  ──皆、好き勝手言ってくれちゃって。  自分で報告会をしておきながら、この話題を逸らしたくなってきた。汐乃が別の話題を探っていると、玲がボトルワインを一本持ってきて置いた。そして親指でカウンターを指差し、潔子に向かって「オーダー」と呟く。潔子が慌ててテーブルから離れた。 「はい。サービスっす」 「あら、ありがと」  玲は慣れた手つきでコルクを開ける。その手つきを汐乃はぼんやりと眺めていた。 「……そういえば、あなた達はどうなの?」 「どうって、なにが?」 「玲ちゃんと潔子ちゃんは、どこまでいったのかなって」 「どこまで、とは?」 「もう、付き合ってるの?」

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