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 それから、しばらくは不動産業の方をメインにして生活をした。普通の人間として働くのも、ルキには性に合っていた。  たまたまランチで立ち寄った店で、琥太郎と再会した。すっかり昔の面影はなく、穏やかで真面目な青年になっていた。聞けば結婚を考えている女性がいるらしい。 「ああ……ルキさん、お元気そうで」  ──別に元気じゃねえけどな。クソ妖怪が。 「ええ。お陰様で。琥太郎さんも、きちんと働いているようで安心しました」 「はい……えっ、どがんしたとですか。その口調」 「ああ……僕も今や営業職ですから。乱暴な口調は封印したんです」  ルキは響が亡くなってから嘘が上手くなった。嘘で自分を固めないと、自分の弱いところを突かれてしまいそうだったから。そこに誰かが入り込めば、頼ってしまうことをルキは自身でわかっていた。それが怖いから、最初から厳重に鍵をかけている。 「そ、そうですか。いやあ、印象が違って逆に怖か……」 「やだなあ。それはこちらの台詞ですよ。あなたもすっかり、大人しくなっちゃって」  それからというもの、琥太郎と時々顔を合わせるようになった。当初はルキの変わりように怯えていたものの、次第に打ち解けていった。  そんな中で琥太郎は例の彼女と結婚した。そして、近い将来に自身の焼肉屋をオープンさせたいという夢も語った。それは琥太郎の彼女──いや妻との夢でもあるらしい。 「ルキさんにあの時シメられて、死ぬかと思ったとですけど……今は感謝しとります。自慢の妻と出会えて、夢も持てて。あのままやったら今の生活は手に入っとらんです」 「……俺……いえ僕のおかげですか?」 「えっ、ええ。そうやと思っとります」 「……そう、ですか」  ──俺は、間違っちゃいなかったんだろうか。  目の前の、かつてルキがいたぶった妖怪は真っ直ぐな目でルキを見ている。そして、未来を語る。  妖怪を恨む気持ちはルキの胸から消えることはない。しかし、それ以上に自分の行いを責め続けてきて、自分をも恨み続けた。自分の行いが響を殺したと思っていた。自分はなにも生みだせない、どうしようもない存在だと思ってあの日から生き続けている──だが。 「琥太郎さん、その夢……僕にも手伝わせて欲しい」  彼らの夢が叶えば、自分のやったことは肯定されるのではないか。ふとそんな考えが降ってきて、つい口走ってしまった。  それからのルキは忙しく動いていた。まずは店舗の営業に向くような物件を探すところから始める。ひとまずメゾネットタイプで五部屋分構えているビルがあり、購入者を募っているのを知ったのでルキで押さえておいた。

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