儚く吐かない
そこにいた青年

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 ともあれ、高橋は見事にその映画デートがきっかけで付き合うようになり、結婚したのだ。 「なんだ割と普通の話しだな、もっと壮大かと期待したのに」  俺の話した内容まで捨てるかのように、鈴木が煙草の灰を灰皿へと落とした。 「いやいや劇的だってば!高橋家を訪問したら別次元かと思うほど幸せホワポコなんだぞ」 「ホワポコってまた面白い表現を。今度の休みに佐藤が家に来るんだけど、鈴木も来る?」  「めんどくせえ、そういうの」  そう言って鈴木は五本目の煙草に火を点けたので、俺は鈴木が以前に言っていたことを 思い出していた。 「不満も愚痴も怒りも言葉にはしない、その代わりに煙として吐き出すんだ」  という強い主張を。  なんだかカッコいいようで無理しすぎというか。  そんな風に煙草を吸ってもうまくないだろうとか。  別の意味で身体によくないとか。  色んな気持ちがモクモクと心の中で湧いたが、俺は沈黙を貫いている。 「俺たちに俺たちなりの生き方があるように、鈴木の生き方に口出しはすべきじゃない」  高橋にそう言われたからだ。    そんな風に微妙な距離観を保ちつつ、喫煙所での三人の語らいは続いていた。  そしてようやく風の冷たさもやわらぎ始めた頃......。  「おい少年、なにジロジロみてんだよ!」  煙草の火を消すのと同時くらいに、鈴木が俺たちの話題を消し去り、急に通りに向かって叫んだので、 何事かとそちらをみると、少年というより青年という感じの男が立ち尽くしていた。  ダッフルコートの下にチェックのシャツでジーンズでスニーカーで肩掛けカバン、地味で素朴な印象で 顔立ちも普通だったが、なんだか目がキラキラしている。 「あ、僕、もう少年じゃないです。二十歳になりました。今日で。 いや、いつも大人数で煙草を吸ってるのが、なんかすごくて」  青年が素直すぎるほど率直な返答をしてきたので、田中が「そうなんだ、おめでとう!」 と、大きな声を出して大きな音で拍手をした。  周囲の喫煙者たちが反応してこちらをみてきたが、俺も音を立てず小さく拍手した。 「だったらちょっとこっちこい」  と、鈴木が青年へと片手で手招きしたら、青年はさすがにそれは戸惑いつつも階段を上がって 喫煙所までやってきた。

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