儚く吐かない
急に吐いてきた言葉

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「お邪魔しまーす、うわあ、ほんと高いビルっすよね。いいなあこんなとこで働けるって。 エリートなんでしょ?」  青年が後ろに倒れるんじゃないかとおもうほどのけぞりながら建物を見上げている。 「エリートってわけじゃねえよ、それよりおまえ二十歳になったってマジ?」  鈴木がいつもと同じ口の悪さながらも、なんだかいつもより柔らかい表情になっている。 「あ、はい、本当です、嘘じゃないですよ」  青年はカバンから大学の学生証をわざわざ出してみせてきた。 「なにこれ?なんて読むんだ?」  三人で学生証を見て三人とも眉間にしわを寄せて、俺が咄嗟に聞いてしまった。  生年月日から逆算して二十歳であることは確かだったが、名前があまりにも珍しいタイプだったのだ。                                         彼の名前は「清通清良」で、清という字が二つあるのもすごいが、読み方にいろんなパターンがありすきる。 「あはははっ!みんなそういう顔をするのが面白いから、学生証みせるの楽しいんすよ」  イタズラが成功した子供のような顔で青年が笑った。 「これね、きよみちきよし。清々しいって意味合いにしようって親が付けてくれたんです」  なんとも俺たちとは対照的な相手が出現したものだ、三人そろって名字も下の名前も、さほど珍しいものではないのだから。  だから俺たちが鈴木と佐藤と高橋であることを告げると、清通くんは小さめの目を見開いた。 「最強トライアングルですね!」  と、言われ、その表現にはユーモアに自信のある俺でさえ意表を突かれてしまった。 「ほい、おめでとう」  鈴木が自身の煙草を一本、清通くんへと差し出してきた。 「晴れて煙草と酒の解禁日じゃねえか、吸え、誕生日プレゼントだ」  そう言って自身のライターまで清通くんへと向けている。 「いえいえいえ、僕は家族も吸ってないから煙草のことはよくわからなくて」  これにはさすがの好青年もためらいを見せるのは当然だろう。 「鈴木、無理強いはダメだよ。それに鈴木の吸ってるのは初心者向けじゃないよ」 「確かにな、それに年齢がきたからってポンと大人になれるわけじゃないんだぜ」  高橋が思いやりをこめ、俺がマイペースに言ったら、鈴木がうつむいた。 「要するにそういうことだ。青年、おまえは俺のような大人にはなるな。 こいつら二人のような大人になれ」 「は?」  いきなりすぎて俺たちも清通くんも同時に声を出した。

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