第六章 十一月下旬~十二月下旬 2 2 「ワゴンにまた入れてくれるって?」 渡海が聞いて来る。 「ええ、ドーンっと三個も置いてくれるそうです。今回は、一割引での販売でいくからって」 「いいじゃない。ワゴンに入れてもらえれば」 「まあ。それと、西野さんに取材依頼が来るかも知れないんですよ」 「取材?」 「ええ、文化情報っていう週刊誌あるじゃないですか。パピルの店長の友達がそこにいて一緒に飲んだ時、話したら食いついて来たとかで」 「部長と課長がどう判断するかだね」 渡海が、言った。 この日は、ビッグサイトで世界文房具展が開催されていて、フェルシアーノもブースを設けていた。吉村係長を中心に開発企画部と営業部のメンバーが合同で立つことになっている。今年は、二区画のスペースを取っていた。三日間の開催で、営業部から瀬川主任、川田佐和子、東田奈々、企画開発部から椎野主任と宮坂絵里が組み合わせを変えてブースに立つことになっている。木川課長は、一日目の今日、午前中だけブースに立つ。 週刊文化情報は、どんな角度で取材をするのだろうか。春夫は、しばし思い巡らせた。 大手出版社の老舗的週刊誌である。硬軟織り交ぜての記事が多い。佐野店長に話したことは本当で、政治的なことや社会現象に関する特集記事に興味があって春夫も時たま買うことがある。 会社が取材を許すかどうかが前提にあるが、「よし」としても、明美が取材を受けるだろうか。春夫は、とに角、昼休みに明美の携帯に連絡を入れることにした。 営業の出先から春夫は明美に連絡をとった。北区王子駅前のレストランで食事をとり終わったタイミングだった。 「まだ、記事にするって決定したわけじゃないんでしょ?」 「佐野店長の友人っていうから五十代の入り口ってところだろう。編集長クラスじゃないの?その人が記事にしたいって言ったら通るんじゃないかな」 「だけど、女装して営業しているだけの私に週刊誌のネタになるだけの価値があると思う?」 「ニューハーフの人が、化粧して女性のファッションで、営業部門で働いているってけっこうインパクトあるんじゃない?記事としては」 「そうかしらね。女性として普通の会社で働くっていうのは、社会全体からすれば、マイナーに違いないけど」 「あなたから木川課長に電話して聞いてみて。三田部長は一日展示会になってるけど」 「そうする。動物、おもしろバージョン、受けてるわよ」 明美は、弾んだ声で言って携帯を切った。 木川課長から、どんな回答が得られただろうか。春夫が、五時に帰社すると明美は日報を書いていた。 春夫は、打ち合わせテーブルでコーヒーを飲みながら、明美から話を聞いた。
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