ニューハーフ OL
第六章 十一月下旬~十二月下旬 4

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     第六章 十一月下旬~十二月下旬 4               4  十二月十日発売の「週刊文化情報」に明美のカラーのグラビア写真とインタビュー記事が掲載された。 グラビアページを見た佐和子のひと言が、会社全体の感想を代表していた。 「きれい、本当にきれい」  佐和子は、唯々賞賛したのだった。    左側のページが、明美の全身写真が掲載されている。  化粧もばっちり決めた表情は、きりっとした印象を与える。白のブラウスに黄緑色のスーツである。スカートの丈が短めで膝上十センチほどのミニでふくらはぎから膝上までの女性を感じさせるラインを披露していた。ハイヒールの右足を前に出したポーズで、力を抜いた両手の爪はピンクのマニュキュアの上に細かなラメが散りばめられているのが見て取れた。  右側の紹介記事には、明美が、山梨県の専門学校の観光課を卒業、東京で少しの間アルバイトをした後、ショーに力を入れる新宿のニューハーフクラブ、ラウンジスリーで働くようになったという経歴が書かれている。美穂子ママの「売れっ子でした。踊りに関しては中心的存在、ジャズダンスだけでなくタップダンスも上手でした。戻って来たくなったら、いつでも大歓迎です」というコメントがあった。  フェルシアーノでは、木川課長が代表して明美についてコメントした。 「うちの会社としては、営業部のOLという扱いですが、お世辞抜きに評価は高いです。今年の春から店舗さんに我社のコーナーを設けてくださるようお願いしているのですが、西野さんの契約数は、トップランクです」    そうした紹介の後、須沼と明美のやりとりになった。 ――ニューハーフクラブでお仕事を明美さんが普通のOLになったいきさつは、何だったのでしょう? 「普通の女の子のお仕事についてみたくなった、ある日、急にそんな強い欲求に襲われちゃって、そしたら、いてもたってもいられなくなって、ママを通してお客さんでいらしたフェルシアーノの社長さんに頼み込みました」 ――文房具の営業というと前のお仕事に比較すると随分地味に思えますが。 「私、文房具って好きなんですよ。可愛いイメージがあるでしょう。うちの会社、女性用のペンケースとか中高生向けの文房具ポーチとかに今力を入れていますけど、両方とも好きな商品で、営業していてすっごく楽しいです」 ――趣味とかは、何かあります? 「塗り絵です。今、お休みの日のほとんどの時間をこれに費やしてます。A3の大きな塗り絵を完成させた時は、感激でした。素敵な額を買って来てお部屋に飾ってあります」 ――西野さんは、瑠璃という源氏名で新宿のショーダンスに力を入れているラウンジスリーというお店で踊っていらしたんですよね。美穂子ママは、中心的存在だったと話していましたが、もう一度スポットライトを浴びて踊りたいとかの気持ちはないですか? 「今は、全くないですね。OLガンバリマース」 ――世間には、明美さんみたいにあくまで女性として、昼間の会社で働きたいというニューハーフの方がいると思います。けれど、現実には、困難なようです。そういう方達のために何かアドバイスするとしたら。 「世間は、多様性の時代とか表向きは、耳障りのいいこと言ってますけど、現実は、かなり違うと考えた方がいいんじゃない?私みたいに理解ある会社にたまたまめぐり合えればいいけど、そう簡単に向こうから、『おいで、おいで』をしてくれる会社はないと思います。だったら、自分からアタックでしょう。正攻法がいいと思いますよ。応募する時、写真は、もちろん女性の髪形に化粧をばっちりして。私は、あくまで女性として働きたいです、履歴書とかに添付した文章をつければ面接してくれる会社があるかも知れない。ごめんなさい。うちは、もう、来年入社予定の人が何名か決まっているので、難しいも知れません」 ――トランスジェンダーの立場として何か特に言ってみたいことがありましたら。 「うーん。トランスジェンダーとかマイノリティーとか、LGBTとかもろもろの言葉のいい意味での消滅を願っています。世間の中にすっかり溶け込むというか。ひとつの光景、世間一般の尺度では、むくつけき男ふたりが手をつないで区役所なり市役所なりに訪れて、『私達結婚します。今日は、その届けを提出に来ました』と言うと担当者が『おめでとうごじます』ってニコニコしながら届けを受理してくれる。そんな社会が出来たらなあ、って思っています。まあ、日本の現状考えると十年経っても実現しそうにないですけどね」

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