ぱち。とリンデルが目を開いた時、視界には宿の天井が広がっていた。 「あれ? 俺は……」 と体を起こすと、ソファに横たわるロッソの姿があった。 (なんでソファに……) 数年前から、リンデルはロッソに同室を許していた。 なので、この部屋には当然ロッソのためのベッドもあったはずだ。 横を見れば、少しだけ離れたベッドには黒髪の男が休んでいた。 リンデルの気配に気付いてか、ふっと目を開いた男の、森と空の色。 途端、喜びが胸に溢れて息が詰まる。 「カー……っっっ!!」 愛しいその名を呼ぼうとして、リンデルはまた強烈な痛みに襲われた。 男は、片腕で体を支えながら器用にベッドから降りると、そんな青年へ手を伸ばす。 まるで当然のように、男は青年のベッドへ上がると、金色の頭を優しく胸元に抱いた。 「リンデル、一度術を解いてやる。俺の眼を見ろ」 優しい声にびくりと肩を震わせるリンデルが、それでもふるふると、頭を振る。 「嘘じゃない。解くだけだ。突然いなくなったりもしない。約束する」 「…………本当に?」 怯えるように、恐る恐る顔を上げた青年が愛しくて、男はその唇へ口付けた。 驚いたように見開かれた金の瞳を、紫の光で射抜く。 とろりと金の瞳から光が失われたのを確認して、男は解術の言葉を囁いた。 瞳の色を空色に戻した男が、優しく、焦がれるように囁く。 「リンデル」 ハッと正気に戻った青年が、自分よりほんの少し背の高い男を見上げる。 金色の瞳から、涙が次々に溢れ出す。 「カース……。カースっ! カース!!」 リンデルに思い切り抱きつかれて、片腕の男はたまらずベッドへ倒れ込んだ。 「こら。まだ夜中だ、あまり大きな声を出すな」 男に嗜められて、リンデルはごめんなさいと小さく呟く。 男の胸に埋めていた顔をチラリと上げると、男はとても優しい目で青年を見ていた。 「ああ、カース……本当に、カースだ……夢じゃないんだよね?」 青年が喜びに震える指先で男の頬をなぞる。 「大きくなったな、リンデル。一瞬分からないほどだったよ」 男が目を細めると、男の目からもひと粒の涙が零れた。 その雫を青年が、ちゅっ。と音を立てて吸う。 「リンデル、よせ。従者に見られてるぞ」 息を潜めて一部始終を見守っていたロッソが、急に振られて瞬時にソファの肘掛けに引っ込む。 「大丈夫。ロッソは俺が不利になるような事はしないよ」 リンデルはそう言うと、ふわりと微笑んでカースの口をその唇で塞いだ。 「んっ……」 リンデルに強引に舌を入れられて、男が小さく息を漏らす。 あの頃まだ小さかった少年の舌も、口も、今では男と変わらない大きさで、奥まで侵入してきた舌は男の口内をいっぱいに満たした。 「……ふ、ぅ……」 早まる心音に息が苦しい。 男の背筋をゾクリとしたものが駆け上がる感触に、ジンジンと頭の奥が痺れてくる。 リンデルは一度唇を離す。 銀糸で繋がる男の、上気した表情をうっとりと眺めてから、もう一度、深く口付ける。 水音を響かせながら、ゆっくり、じっくり、お互いの内を繰り返し確かめ合う。 「ん……」 リンデルは唇を離すと、男の口から溢れた雫を愛しげに舐め取る。 そのまま、顎から首筋へと舌を這わせてゆく。 「っ、リンデル……。お前、何す……」 男の鎖骨の窪みへ舌を這わせていたリンデルが、顔を上げて微笑む。 「ん? えっちなこと」 リンデルは自身の唇をぺろりと舐めると、艶めく金色の目を細める。 薄闇の中、その姿はどこか妖艶でもあった。 「…………だめ?」 ほんの少し淋しそうに首を傾げて尋ねる青年に、男が思わず息を飲む。 そんな男の動揺に気付いてか、リンデルは男の手を取ると自身の口へと入れてみせた。 男の指を愛しげに舐めながら、じわりと体を密着させる。 リンデルの熱い身体から伝わる熱。 男の耳元に顔を寄せると、リンデルは可愛らしくねだった。 「カース……俺と、えっちなこと、しよ……?」
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