赤坂ひかるの愛と拳闘
迷走する青春(3)

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   ◇  札幌の南端にあるその高校は、なかなか遠くにあった。  朝、腹痛の薬をのみ、バスと地下鉄を乗りついで、ひかるは高校に通った。中学の友だちはみんな別の高校に行ってしまったが、通学友だちのようなものがすぐにできたし、クラスにも仲良しグループができた。山や川に囲まれたその高校で、ひかるはのびのびと、自由な高校生活を送る。  球技が得意なひかるは、ソフトボール部に入った。それほど強い部ではなかったため、すぐに一番サードのレギュラーになった。ソフトボールはなかなか面白くて気に入っていたのだけれど、通学に時間がかかりすぎるため、何ヶ月かで辞めてしまった。  だから高校生活で一番やったスポーツは、スキーということになる。学校のすぐ裏にある山には、スキーやリュージュのコースがあった。高校の保健体育の授業は、春と夏の間に終わり、スキーのシーズンになると、毎週土曜日が一日中スキー授業となる。スキー授業は厳しかったが、ときどき自由時間があった。 「ねえ、あれサキコじゃない?」 「よし、じゃあ、つながっちゃおう!」  ひかるたち悪の軍団はこっそり近づいていった。視界の先ではサキコがよたよたと初級者コースをボーゲンで滑っている。 「あーっ! ちょっと! ちょっと、ちょっと!」  サキコの後ろから、同じボーゲンでミユキがつながった。その後ろから、二人目、三人目と、ひかるたちが次々くっついていく。パーマンは繋がって飛ぶと、速さが倍になる。四、五人もくっつくと、ムカデボーゲンはとてつもない加速をみせる。 「あー! だめ! 危ない! だめ!」  驚速のムカデボーゲンはもう、誰にもコントロールできなかった。やがて後ろから一人ずつ離脱していくのだが、間に合わなかった先頭の三人がコースの端で大転倒する。 「あははははははははは!」  うまく離脱したひかるたちが笑い転げた。転倒した三人は起き上がることができず、いくつかのスキー板はゲレンデに突き刺さっている。 「大丈夫ー? おーい!」  三人の元に集まったひかるたちは、大笑いしながら言った。本当は大事故の一歩手前で、笑いごとではないのだけど、転倒したサキコも流血しながら笑っている。 「ねえ、カレー食べようよ」 「いいね!」 「行こう!」 「ちょっと待って! 待って! 待って!」  麓に向かって滑っていくひかるたちを、サキコが泣きそうになりながらボーゲンで追いかけた。チケット売り場の前まで来て、ひかるたちはスキー板を外す。 「ほら、あそこ来た! 行こう」  チケット売り場に向かってくるスキー客に、ひかるは近づいていった。 「あの、もしよかったら、これ千六百円でどうですか?」 「ん? ああ……いいけど」  スキー客は訝りながらもうなずいた。  タフで無茶な女子高生だった。はかりごとをするのは、いつだってひかるだ。  ひかるの学校の購買では、千八百円のリフト券を千二百円で買うことができる。それを千六百円で売り、差額でカレーを食べるのだ。

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