赤坂ひかるの愛と拳闘
迷走する青春(5)

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   ◇  高校には進学コースと就職コースがあって、ひかるは進学コースを選んだ。大学に行こうとは思っていたが、○○大学に行きたいとか、将来はこんなことがしたいとか、そういう意志は特になかった。 「自分自身を見つめ直して、記入したプリントを提出してください」  進路を考える授業が始まった。自分の性格や短所・長所を洗いだし、自分に向いている進路を考え、プリントに書き込む。自分の名前や親の職業や出身中学などを書き込んだ後、ひかるの右手は止まった。  自分の性格なんてものは、身長や体重と違って、正確に説明できるものではない。空欄を前に首をひねるひかるは、最近母に、わがまま言うんじゃない、と言われたことを思いだした。 「ねえ、わたしってわがままかな?」  ひかるは何気ない調子で、友だちに訊いた。 「ん? 何が?」 「だから、わたしって、わがままなほうかな?」 「はあ?」  信じられない、という顔を友だちはした。 「あんたがわがままじゃなかったら、世の中にわがままはいないからさ」 「え、そうなの?」 「そうだよ! こないだだって、寒いからもう帰るって。行こうって言ったのはあんたなのに」  ビラ配りのバイトのときのこととか、花見のときのこととか、と、いろんな自分のわがままエピソードを聞かされた。 「チケット取るのに、並んでてくれ、ってユキに頼んでるし」  アイドルイベントの整理券を取るのに並ぼうと思っていたのだが、午前中に家を出るのが嫌で、ユキに電話して並んでもらったことがあった。 「……ああ、まあ、確かに、そうだね」  確かに自分は、わがままだ。言われてみれば間違いなく、自分はわがままだ。  短所に、わがまま、と書いたひかるは、そのプリントを家に持ち帰った。机の前に座って、本気をだして続きを考えてみた。自分はどんな人間で、自分とは一体、何者なのだろう……。  小学生のときは暴れ回るばかりだった。基本的に男っぽい性格をしているのは間違いない。思ったことはその場で言うし、相手にもそれを求める。  人前では泣いたことがなく、泣いたら負けだと思っていた。弱みを人には見せたくなかった。そういう負けん気の強さは、もしかしたら母に似たのかもしれない。  だが、自分はどう考えてもテキトーな人間だった。面倒くさがりで、軽薄で、計画性がない。進路もそうだけど、目の前のことしか考えられない。かなりわがままなはずなのに、人には恵まれていて、いつも仲間たちと一緒にいる。  父……。あまり考えたくはないことだが、もしかしたらその辺りは、父に似たのかもしれない。  ひかるは友だちと一緒にいるのが好きで、面白いことが好きで、何をするにも仲間を巻き込んだ。グラウンドを走る男子たちの着順を予想し、予想を一番外した者に全員のジュースをおごらせた。テストの結果に昼食のパンを賭けたり、トランプで放課後のアイスを賭けたりもする。  さっぽろ雪まつりに出かけて、すれ違う外国人全員と写真を撮る、などというくだらないミッションを実行した。クラスの大人しい人たちと仲良くなろう、と、突然思いたって、強引に昼食を一緒に食べたのだが話が弾まず、ひかるが一人でしゃべりまくり、自分の話に自分で笑って食べ物を噴きだし、嫌がられたりもした。  企てるのはいつもひかるだったし、一番ふざけるのもひかるだった。けたけた笑いながら過ごす日々は代わり映えしなかったが、毎日、大事件が起こっているようでもあった。  そんな自分の進路希望について考えたのだが、さっぱり思い浮かばない。取りあえずひかるの今の希望は、光GENJIのコンサートに行くことと、車が欲しいということくらいだ。  最近は、車への興味がむくむくと湧いてきていた。ひかるは好奇心が旺盛だ。熱しやすく冷めやすいのだが、その熱し方が半端ないのかもしれないな、と思う。  マリという高校を中退した友だちがいて、社会人になった彼女は自動車学校に通っていた。影響を受けやすいひかるは今、無性に車の免許が欲しかった。  免許を取って、トヨタのスープラを手に入れたかった。スープラのエアロトップは屋根の部分を取り外すと、オープンカーのようになる。どこの大学がいいか、ということはさっぱり決められないけれど、欲しい車はスープラだ。  光GENJIのことやスープラ・エアロトップのことを考えながら、ひかるの夜は更けていく。

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