赤坂ひかるの愛と拳闘
迷走する青春(6)

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   ◇  高校の修学旅行は京都奈良に寝台列車で行った。先生が来たら寝たふりをしよう、と言い合って、ひかるたちは寝台で騒いだ。しばらくすると先生が見回りに来たから、全員で一斉に寝たふりをした。 「おい、もう寝たか?」 「……はい、寝ました」  サキコが答えて、他の者がくすくすと笑った。だがひかるは何も覚えていない。寝たふりをしたら一瞬で眠ってしまい、気付いたら朝になっていたからだ。  京都で騒ぎ、奈良で騒ぎ、札幌に戻ってまた騒いだ。翌日の教室でもまた騒ぎ、ひかるは現国の授業で、"雑木林"を"ザツボクリン"と読んで、笑われた。  日々は過ぎ、いいかげん進路を決めなければならなかった。スープラが欲しい、免許が欲しい、ということくらいしか思いつかないひかるの進路は、なかなか決まらない。 「車が欲しいだけなら、無理に大学行かないでも、どこかに就職して、給料で買えばいいんじゃない?」  と、母は言った。 「……んー、じゃあ、そうしようかな」  大学に行くつもりで進学コースにいたけれど、就職もいいかもしれない、と、その日、ひかるはあっさり思った。 「まあ、ちゃんと考えときなさい。就職するなら四年間は大学行ったつもりで、家にはお金を入れなくてもいいから。それなら車もすぐに買えるでしょ」 「うん」  テレビを観ながら母と話していると、ジムの仕事を終えた父が帰ってきた。夜ごはんの準備を始めた母が、父に今の話をかいつまんで説明する。 「なんだ、お前、就職するのか?」 「いや、まだちゃんと決めてはないけど。先生にも言わなきゃだし」 「ふーん、そうか」  そのときはそれで話は終わった。  翌日の夜中、酔っ払った様子で家に帰ってきた父が、嬉しそうに話しかけてきた。 「ひかる、お前、グランドホテルで働かないか?」 「グランドホテル?」  気の早すぎる父の提案に、ひかるは首をひねった。 「札幌のグランドホテル、叔父さんの結婚式で行ったことあるだろ? おれが話つけてやるから」 「……んー、まあ、それでもいいけど」  就職活動もしていなかったひかるだが、あっさり就職先が決まってしまった。

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