ヘヴンスターズ
34. こころ

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 空にぷっかりとした満月が浮かび上がった。仰角およそ六十度。山頂は周りに星が少ないから、満天の星空も、北斗七星すらはっきり見えた。北斗七星は北極星ではなく、満月を指しているように見えた。ここに向かって打て、と、光を示しているように。  月じゃない。そう思った。打つべきなのは、光だ。誰にも触れられなかった、さびしい光を。そして光を投げられるたったひとりの投手を俺は知っている。俺がそれを打つことで、ララの理想の投球はさらに進化する。そうやって俺たちは成長していく。傷つけあって、強くなる。 「いてまうぞこらあ!!」  俺は長くて堅いものを携え、ララに対峙する。ララが、初めてすなおな心を投げてくるのが分かる。  ララは投げる前、握りを俺に見せてきた。それはメジャーリーグに行って覚えたナックルカーブの握りじゃなかった。あの頃よく投げていた、超スローカーブの握りだった。そうだ、月がナックルカーブであるならば、超スローカーブは、何よりも速い光であるべきなんだ。  ララがかたえくぼを浮かべて振りかぶり、あのころの誰よりも美しかったモーションに入っていく。 「カーブ!」  外角低めに逃げていく変化球を、ライト・スタンドへ、光のみなもとへ弾き返す。  いま分かった。雪月花とは、心のことなんだ。つまり、見えないもの、聴こえないもの、触れられないもの。理想の打撃とはつまり、心を打つことなんだ……。

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