しーなねこ十篇
時を漏らす

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 恵比寿の居酒屋で合コンをしていたはずだった。  緊張してビールを飲みすぎ、トイレに立ったら、数名の列ができていた。  トイレはひとつしかない。待ちきれない。居酒屋を出てコンビニのトイレを目指すことにした。すぐにコンビニに入ったが、トイレのないタイプだった。ふたたび外に出て、辺りを見回しながら歩いたが、コンビニが見つからない。  コンビニでなくても、カフェでも雑居ビルでも、トイレがあれば何でもよかったが、それもなかった。歩きすぎて人通りの多い駅前まで来てしまった。横断歩道で信号が変わるのを待つ。  膀胱が破裂しそうだ。いや、破裂の前に漏れるだろう。  店のトイレに行くつもりだったので、上着もコートも羽織っていない。サンダル履き。酒をかなり飲んだので、顔が赤く酔って見えるのだろう。仕事帰りの会社員たちが、ちらちらこっちを見てくる。  信号が変わった。横断歩道の先に牛丼屋が見えた。あそこのトイレに入ろう。と駆け出そうとしたとき、サンダルが突っかかって脱げて派手に転んだ。 「大丈夫ですか!」  女性が近づいて来た。 「は、はい、大丈夫です……。けど」  転んだショックで漏らしてしまった。股間に広がる懐かしい温かさ。  いつ以来だろう――。 「じゃ、とりあえず乾杯~!」  僕は席にいて、ビールグラスを持って乾杯していた。さっきの合コンだ。  しかも、これから始まるところだ。  慌てて股間を確認する。濡れてない。しかもさっきまでの尿意がない。どういうことだ。  夢? まさか。転んで横たわったアスファルトの感触や、漏らしたズボンの感覚は生々しく残っている。考え込む間もなく、自己紹介タイムになり、僕にとって二回目の自己紹介をした。  さっきとまったく同じことを言い、女子たちからまったく同じ反応が返ってきた。さっきのはなんだったのだろう。ビールを飲むうちに、どうでもよくなってきた。  何かの偶然だったのだろうと思いながら飲み、飲みすぎてトイレに立った。  トイレに列ができている。デジャブだ。  もしやと思い外に出て、さっき入ったコンビニを窓から覗くと、やはりトイレのないタイプだ。前に体験したことはリアルだったのだ。ということは、このまま同じ行動をとれば、ふたたび駅前の横断歩道で転んで漏らすことになるのではないか。  僕はさっきと反対方向に歩きだした。ショッピングセンターを見つけて入る。一階の生活雑貨のフロアを探し回ったが、トイレがない。危なくなってきた。店員に聞くと、男性のトイレは三階にあるという。礼を言って振り返ると、ちょうど上へ行くエレベーターが開いたので、膀胱に圧迫感を感じつつ乗り込んだ。  早くつけ早くつけと念じるも、二階で扉が開いた。 「失礼します」と、おばさん店員が衣料品を山のように載せたワゴンを押しながら入ってきた。奥の壁際まで身を寄せたところに、おばさんのワゴンが無遠慮にぶつかってきた。当たりどころが悪かった。  下腹部をぐっと押された拍子に漏らしてしまった。  エレベーターが三階に着いてもズボン内への放尿は続いていた――。 「じゃ、とりあえず乾杯~!」  僕は席にいて、ビールグラスを持って乾杯していた。  確信した。タイムリープ(時間跳躍)だ。  僕は漏らすとタイムリープするのだ。  このことに気が付いた僕は、計画的に漏らしたり、漏らさなかったりして、何度も人生を部分的にやり直すことにより、合コンで気に入った女の子と付き合って(だめになりそうになったら漏らしてやりなおして)、結婚することができた。  タイムリープを活用することで人生を思い通りに進め、最終的には人類を救うことになるのだが、それはまた別の話。

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