さよならリベリオン
2−26 青柳美沙緒の場合

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 会場内では携帯電話の電源を切るようにとアナウンスが流れている。それを聞いてから、文と美沙緒は慌ててスマートフォンを操作した。  電源を落とす前に美沙緒はLINEと着信履歴を確認したが、特になにもない。 「美沙緒、早く消さないと。ライブそろそろ始まるよ。リベリオンはぴったり始まるから」  腕時計に目をやると十八時半を回ろうとしている。秒針が8のところにあった。  美沙緒が完全に電源を落とした瞬間に周囲が暗くなった。  声を出してはいけないけども、もれでる興奮は抑えられない。溜息に似たような声があちらこちらから起こる。  暗闇を真っ白な照明が裂いた。手のひらにじわりと汗がにじんで、心臓が破裂しそうに鳴っている。初めて文とリベリオンのライブに参戦したときと同じだった。  ステージのセンターに立つのはボーカルのアリサ。マイクの前でぴんと背筋を伸ばし、目を閉じている。  彼女は羽化する前のさなぎのように、マイクを握ったまま動かない。  他のメンバーはリズムを取り、音を奏でる。ぴたりと楽器の音が止んだ瞬間に、会場内がしんと静まりかえる。  アリサが発した最初の音で、すぐに曲がわかった。休業直前にリリースされたもので、美沙緒が一番好きな曲だ。  出会った頃のリベリオンとはがらりと雰囲気が変わった。  それでも、誰かに媚びない姿勢はデビュー時からずっと同じだ。だからリベリオンに憧れ続けた。  行き先もわからないのに、びっしりと敷かれたレールの上を進むだけ。そこから脱することをなによりも恐れた自分が本当は嫌で、仕方なかった。  でも、正解なんて結局はなかった。 「美沙緒、楽しそうだね」  文が身体を寄せてきた。文の目は潤んで、今にもこぼれてしまいそうだった。その肩を抱き寄せて、美沙緒は優しく撫でる。 「楽しいよ、すごく」 「よかった」  短い言葉だったけども、美沙緒は文と同じ思いでいることをはっきりと感じとる。  三曲ほど歌いあげた後にMCに入る。メンバーは他愛もない話をして、これまでのライブとまったく変わらない。  そこでふっと気分が落ちついて、彩綾のことが頭に浮かんだ。スマートフォンは電源を切っているので通知があってもわからないが、なにもないか気になってそわそわする。  憧れのアリサが話をしているというのに。文はまっすぐにステージを見ているのに。  美沙緒はときおり足元に置いた鞄に目を向けてしまう。その後もMCのたびにそんなことが続いた。  ──私、ライブを楽しむつもりでここに来たのに……。  大学時代に戻ったような気分であるのは、間違いないはずなのに。美沙緒はそんな自分に気づくと、足元がふわふわした。  ステージ上のリベリオンを見た。アリサの歌声が、遠くに響いている。

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