さよならリベリオン
2−25 青柳美沙緒の場合

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 文がスマートフォンを見て、蒼良が近くにいるらしいと話す。  ふたりで周囲を見ながら進んでいくと、目の前にはリベリオンのコスプレをしている女の子がいた。  高いヒールを履いているせいもあったが、女の子にしてはすらりと背が高い。一緒にいる友だちと思わしき女の子も、快活そうな雰囲気で可愛い。  背が高いのに、リベリオンのメンバー内でも低身長のリオのコスプレをしているのが、美沙緒にはなんだか可愛く見えてしまった。  あの子可愛いねえ、と文に声をかけようとしたら文はその子に向かっていく。 「おーい、蒼良くん」  女の子に向かっていると思いきや、蒼良を見つけただけだったのか──美沙緒はあたりを見渡すが、蒼良らしき人物は見あたらない。  文はその女の子に話しかけていた。 「文さん、美沙緒さん、おつかれっす」  その女の子の口からは、よく知っている無愛想な声がした。  ──ま、まさか……。 「……え、蒼良くん? 蒼良くんなの?」  確かにつりあがった目元には見覚えがあったし、その淡々とした話し方を間違えるはずもない。  失礼を承知で美沙緒はその子──蒼良の周りをぐるぐるとまわって、衣装や顔を観察すると、その子は得意げな顔をした。その顔でようやく蒼良だとわかった。  蒼良のコスプレ衣装は美智恵が作ったものらしい。ライブに参戦するときは、戦闘服と称して蒼良はリベリオンのコスプレをしている。  男子たるもの──と口うるさく兄に言い聞かせていた自分の父親のことを思い出した。蒼良を見たら父親は卒倒しそうだ。  だけど、蒼良の顔はいきいきしているし、コスプレは似合っている。本人が幸せなら、それが一番だ。 「これでリオのこと、しっかり応援する。後悔ないようにしっかりと、ね」 「うん、いいと思う。可愛いよ蒼良くん」  美沙緒は褒め言葉のつもりで伝えたものの、蒼良は嬉しいようなむっとしたような、どちらともとれない複雑な目をした。  言葉を間違えただろうかと一瞬ひやりとする。 「……可愛いに決まってんでしょ。リオみたいに可愛くなるように、作ってるんすから」 「はあ、言うねえ蒼良くん。でも、あたしが可愛いって褒めたときは『殺す』って言ったよね。なんだ、美人には優しいのか。お前も男じゃのう」 「男の姿のときに言うからだろ。美沙緒さんには悪意ないけど、文さんにはあるからな。そろそろ入場始まるし、じゃあね。楽しんでくださいね、美沙緒さん」  行こ、と蒼良は連れの女性と待機列の方へ歩いていく。高いヒールを履いているのに、ふらつきもせずしっかりとした足取りだ。  美沙緒が思わず「すごいなあ」ともらすと、文がけらけらと笑った。 「じゃあ、あたしらも行こうか」  文の後に続いて待機列を目指す。その前に一度スマートフォンの通知を確認したが、特になにもない。  彩綾が泣いたりだとか、美沙緒の不在に気づいただとか、そういう連絡が入るかと思ったが──なにもない。  ──なにもないなら、いいか。なにもないなら……。  美沙緒は鞄にスマートフォンをしまいこむ。それでも待機列に並ぶ間も何度か取りだしてチェックした。やっぱり、なにもない。

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