さよならリベリオン
1−9 藤波蒼良の場合

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 冷やしてもらったおかげか、痛みが和らいだ気がしていた。蒼良は大丈夫ですと言って、あとからくっつけるようにありがとうと添えた。  女性は日守ひもりあやといった。喋り方と見た目に反して、可愛らしい名前だなあと思ったが、それはさすがに伝えない。  文はタクシーを手配してくれて、到着するまで蒼良と待ってくれた。  ──あれ、こういうのって男の役割じゃないっけ。女の人にこういうことさせてるって、だめなやつでは。  そんな話をしたら、文は「男とか女とか関係ないっしょ」とスマートフォンを見ながら言った。  それと同時にタクシーがヘッドライトを照らしながらこちらへ向かってくるのが見えた。 「お礼したいから、連絡先知りたいっす」  別れ際にそう伝えたら、文は「別にいいっす」とストレートの球を投げるように言った。  蒼良は「俺がよくないから」と即座に返し、自分のツイッターをフォローさせた。  そこはLINEだろと後々思ったが、会ったばかりの男にLINEの交換を迫られるときっと気味が悪いだろうし、自分の行動は正しかったと言い聞かせた。  帰りのタクシーの中で、文のツイッターもフォローした。文のツイッターはリベリオンのことと、楽しそうな私生活と、仕事の愚痴が並んでいた。  ──ライブ楽しかった。でも、なんだろうな、ちょっと方向性変わったのかな。  文のツイートに目を留め、蒼良の指は気づくとそれをタップしていた。 *  文と出会ったライブからおよそ半年くらいして、リベリオンは突然休業を発表した。充電期間に入りますとていのいい言葉を並べていた。  この充電期間とやらが吉と出るか凶と出るか。蒼良はリベリオンの公式ツイッターを眺めながら顔を歪ませる。  少し前から蒼良が惚れこんだリベリオンとは遠ざかっていた。  アーティストが活動年数を重ねると、音楽性や売りだし方が変わっていくことは往々にしてある。頭ではわかっていたが、心がついていかない。  それぞれの演奏技術や、曲のクオリティ、表現力は確実に洗練されていた。  昔は歌わなかったような愛だの恋だのという曲も歌い始めた。休業直前に出した曲は、切ないと評判になりヒットした。  かわりに魂の底から叫ぶ曲は減って、多くの人の心に寄り添う曲が増えた。共感できる曲というやつだ。  リベリオンに共感など求めていないのに。愛とか恋とか、一過性のものなんか歌うなよ。世の中をひっくり返すような曲をくれよ。俺が求めてんのはそういうのだよ。薄っぺらい愛だの恋だの食傷気味だよ。

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