さよならリベリオン
2−15 青柳美沙緒の場合

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 ふと、美沙緒は自分に疑問を抱く。  それこそが正しい母親像であるはずなのに、なぜ口に出せないのだろうと。正しいことなら堂々と口に出せばいいものを。  ただ、口にしてしまうのが怖かった。特に、蒼良の目の前では。 「……そりゃあ、あるよ」  蒼良の目が一瞬見開く。 「……でもなんだかんだで可愛いから、やっぱりできない。仮にそんなことしたって、後味悪いだろうからね」  美沙緒は自分の本音に近い感情を吐きだした。本音だけど、本音でない。美沙緒でさえもよくわからない。  目の前の蒼良は自分が質問をしておきながらも困ったような様子だった。 「ねえ、蒼良くん……」  どうしてそんなことを尋ねるの、と口を動かそうとしたところで文が戻ってきた。  蒼良と文はお互いに軽口を叩いている。そのおかげで、この場の空気はまた柔らかくなった。  彩綾の眉間には不快感が波打っている。それを見るだけで、美沙緒は今日の聖地巡礼の終わりを悟った。  そういうわけで、文の車は美沙緒の自宅目指して走っている。  泣き疲れて眠る彩綾のため、車の中は音楽を鳴らさずにしんと静まりかえったままだ。申し訳ない気分でいっぱいだった。  ぽつりぽつりと文が話して、美沙緒が答えるだけ。蒼良はスマートフォンを操作しながらときおり相槌を打つくらいだ。 「……美沙緒さん、ラストライブのとき、彩綾ちゃんどうするんすか」  この静かな車中に手榴弾を投げこまれたようだった。どっかん、と頭の奥で聞こえた気がした。  燃える空気を美沙緒はぼんやりと眺めて、文は運転をしつつも動揺しているのが明らか。  空気が変わったのは自分のせいだと気づいた蒼良は、森のリスみたいに首を動かしては文と美沙緒を交互に見る。 「……私、ライブは……行かないよ?」  文へ改めて意思表示をすべく、ゆっくりと口を動かす。文はまっすぐ前を向いたまま、なにも言わない。 「え? 文さんと参戦するんじゃないんすか。文さん、友だちと行くって言ったから、てっきり美沙緒さんと……」 「誘われてたけど、断ったから。あれ、文……私、返事したよね? だから今日誘ってくれたんでしょ?」 「うん……そう……だけど……」  ──どうしてわかってくれないんだろう。  行きたくて行きたくて、リベリオンの最後の姿を目に焼きつけたくて。美沙緒が切望していて、そして叶わないことを文は知っていると思っていたのに。  文はなんのしがらみもなく、好きなことができる。いいご身分だろうけど。  ──なんて、そんなの正しい友だちの考えることじゃないよね。  こんなときにまで正しさを持ちだす自分に美沙緒は半ば呆れてさえくる。  美沙緒は自身を落ちつけるため小さく息を吸いこんだ。

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