さよならリベリオン
1−2 藤波蒼良の場合

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*  リベリオン、とはボーカルのアリサ、ギターのヒナ、ベースのリオ、ドラムのヨウで結成された、女性四人組のロックバンドだ。八年ほど前、とある大きなオーディションを勝ち抜き、彗星のごとくデビューした。  彼女たちは高校の文化祭でバンドを結成し、その後わずか二年ほどでデビューにこぎつけている。  奇抜なメイクやファッションで若者を虜にして、黒を基調としたパンクやゴシック風の衣装に身を包み、素顔がわからないほどに派手な化粧を施している。  もちろん、見かけ倒しではない。安定した演奏力、ボーカルの圧倒的な歌唱力をもって、社会への不満や若さ故の葛藤をパンク調の曲に乗せ、歌いあげる。  彼女たちがデビューした頃はアイドルブームで、愛だの恋だのといった歌があふれる中リベリオンは異彩を放っていた。  そのバンド名に相応しく、当時の音楽界に反逆の狼煙を上げた──と、ウィキペディアに書いてある。  彼女たちのファンは反逆民と呼ばれる。この呼び方はボーカルのアリサが考案したもので、ファンは自身のことを誇らしげに反逆民と名乗る。  とはいえ、ここ一年半くらいはバンド活動を休業している。そのときも特に理由は明らかにされず、『バンドとして成長するために充電期間をいただきたいと思います』とありきたりな文章を載せて、表舞台から急に姿を消した。頻繁に更新されていたSNSも死んだように動かなくなった。  休業期間はいつ明けるのだろうとファンが待ちわびていたところに、この『大切なお知らせ』だ。  蒼良はスマートフォンを握ったままテーブルに突っ伏した。あんなにも昼飯のことで頭がいっぱいだったのに、箸が進まない。  ──俺、これからなんのために働けばいいんだ……?  リベリオンのライブに通いつめるために、比較的シフトの融通が利くこの仕事を選んだ。高級取りでもないが安定はしている。  ときどき私物や服をフリマアプリで売って、小遣いを稼ぐ。友だちも少ないしお酒も嗜む程度なので、飲み代もさほどかからない。  そうやって捻出したお金はほぼすべてリベリオンへつぎこんだ。それが蒼良の生きがいだった。  楽しい夢から叩き起こされたような気分で、蒼良はふらふらと執務室へ戻る。  とりあえず、昼飯に買ったチキン南蛮弁当は完食した。タルタルソースが喉元をゆっくりと落ちていくような気がして、気分が悪い。 「藤波くん、お疲れ気味?」  胸をさする蒼良を、同僚の牧島が笑う。  牧島はチョコレート色の長い髪の毛をいつも巻いていて、型崩れなど許さないと言わんばかりにスプレーで固めている。 「あー……うん。好きなバンドがね、解散しちゃうんだ」 「ふーん。そりゃ悲しいね」 「……俺、この先どうやって生きていけばいいんだろ」 「そんな大げさだなあ。また好きなバンドがすぐ見つかるって。それか現実で女の子探したら? 紹介するよ」  ──そういうので埋められるようなもんじゃないんだ。  そう言い返そうとしたところで、蒼良の席の電話が鳴った。牧島へ感情を伝えようとするも、蒼良の弱っちい表情筋とマスクのせいでなにも伝わらなかった。  お電話ありがとうございます。日光生命保険お客様窓口、藤波でございます。ええ、当社の保険にご加入を……ええ……。  解散ショックが強すぎて、客の話も入ってこない。  いつもの蒼良ならニーズにあった商品の提案をしつつ、きちんと金額の案内もして、気持ちよく電話を切る。蒼良にとっては日常的なことなのに。  気づいたら客は怒り『ツイッターで拡散してやる』と叫んで電話を切っていた。その怒鳴り声で蒼良ははっと我に返ったものの、なにが起こったのかよくわからない。ただ、自分がなにかミスをしたということは認識した。

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