re 前世
10 温められた餃子

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 夕方、家へ帰ってくる希実。  ガレージに未知音の車が止まっている。  希実、リビングへ入るが未知音の姿がない。  二階へ上がろうとして未知音とばったり出会う。 「希実、お帰り。出かけてたの?」 「うん‥帰りに友達の所に寄って来た」 「そうなんだ。ご飯食べるでしょ?」 「うん、母さん何か忙しそうだね?」 「うん、ちょっと‥」 「晩御飯、何か作ろうか?」 「お願いしていい?」 「うん、何がいいかな?」 「‥餃子の材料ならあるんだけど」 「餃子か‥面倒なやつだ‥」 「ごめん‥何か買って来る?」 「ううん、ごめん。餃子でいいよ」 「うん、ありがとう」  二階へ上がっていく希実。  未知音、着替えなどを持って部屋に入り、ボストンバッグに詰める。 「はー‥気が重い‥」  部屋に西日が差しこんでいる。  自分の部屋へ入る希実。コートを掛け、ふと本棚の木箱を手に取る。 「沙耶良さんに聞いて貰えて、何かラクになれたな‥知ってくれている人がいるってこんなに嬉しいことなんだな‥」  餃子を食べている希実、和志、未知音。  いつもと違い、黙って食べていく和志と未知音。 「‥美味しくなかった?」  希実の言葉にふと我に返る和志。 「あ、いや‥何か味がしなくて‥」 「え?味しない?お醤油とお酒入れたんだけど‥足りなかったかな‥生姜チューブじゃなくてすり下ろした方が良かったかな?ごめん」 「いや、違うんだ‥」 「あ、ラー油つける?」  希実、和志にラー油を渡す。 「え‥う、うん‥」  和志を見て、仕方ないなというように微笑む未知音、壁の時計を見る。 「‥睦、遅いね‥」 「え?そう?‥いつももっと遅くない?」  怪訝そうな希実。 「あ‥うん‥」  仕方ないなというように未知音を見る和志。  和志と未知音、二人揃ってため息をつく。  希実は希実で、テーブルに置かれた睦のお茶碗を見てため息をつく。  いつもと違い静かな食卓。それぞれがそれぞれに、思いに耽っている。  ガレージで車の音がする。 「あ、睦だ‥睦が帰って来た」 「そうだな‥帰って来たんだな」  和志と未知音に、緊張が走る。 「どうしたの?‥何かあるの?」  二人の反応が奇妙で、少し気味が悪くなる希実。 「うん、あの‥実は‥希実に聞いて欲しいことがあるの‥」 「え?何?怖いよ‥」  未知音の真剣さに怯む希実。  リビングのドアが開き、睦が部屋に入って来る。 「ごめん、途中事故があってて遅くなった‥」 「事故?そっか‥運転怖いよね‥気をつけないとだね‥」  事故と聞き、心配になる希実。 「そうだね‥あ、ごめん。荷物置いてくる」  睦、不安そうな未知音と和志の顔に気付く。 「すぐ降りてくるから」 「うん」  同時に頷く未知音と和志。  睦が食卓に着き、空気が少しピンとする。 「‥食べていいの?待とうか?」  睦が未知音に尋ねる。 「うん‥そうだね。ごめんね‥」 「いや、全然」  未知音、希実に話し出す。 「あのね‥ずっと希実に話してなかったんだけど‥」  未知音の雰囲気に、希実にも緊張が伝わる。 「睦は本当は、私の亡くなったお姉ちゃんとお姉ちゃんの恋人だった人の子供なの‥」 「え‥」  衝撃を受ける希実。続けて話す未知音。 「お姉ちゃんと恋人だった人は別れて、その後に睦が生まれて・・元々病気だったお姉ちゃんはその一年後に亡くなったの。私と和君はその少し前に結婚してて、睦を養子にして、でも自分達の本当の子供だと思ってずっと育ててきた‥」 「待って‥え?じゃあ睦は、あの母さんのお姉さんの未来音みくねさんって人の子供ってこと?」 「うん‥」  混乱している希実。 「え?‥私と睦は兄妹じゃないってこと?」 「うん‥睦には二十歳になった時に話していて、でも希実はその頃まだ高校生だったし受験も控えてたから、今は話すのは止めようってことになって‥そのままこれまできてしまってて‥ごめんね‥」 「‥睦は知ってたの?」 「うん、7年前に聞いた‥」 「そうだったんだ‥全然知らなかった‥」 「でも、俺希実のこと妹だって思ってるから。本当のことを聞いても全然変わってないから。俺達は兄妹だよ」 「…」  未知音が続ける。 「睦が二十歳の時に一度、お姉ちゃんが当時付き合っていた人を探したんだけど、どこにいらっしゃるのか分からなくなっていて‥でも最近、長崎にいらっしゃることが分かったの‥」 「長崎?」 「そう。だから睦の出張に私も一緒について行って長崎でその人を探して、お姉ちゃんと睦のことを話して来ようと思ってる」  未知音の言葉を何とか整理していく希実。 「えっと‥二人は結婚はしてなかったってことだよね‥」 「うん。でも私も詳しい事情は知らなくて‥こないだね、お姉ちゃんの手紙を見つけたの‥多分その人は睦のこと知らないと思う、お姉ちゃんは黙ったままだったんだと思う‥もし、先方にご家庭があったなら睦には申し訳ないけど、そのまま黙っておくことも考えたけど、ずっと一人でいらっしゃったみたいで‥」 「‥」  複雑そうに聞いている睦。  じっと考えている希実。 「でも会いに行くの複雑だね‥怖いね‥」 「うん‥」 「じゃあ‥私と睦は‥お母さん同士が姉妹ってこと?」 「そう、だから二人は従兄妹になる‥血縁関係がない訳じゃないから」  希実が安心するようにと答える未知音。  色々な思いが交錯してはらはらと涙がこぼれる希実。心の中で、兄妹じゃなかった‥と安堵する気持ちと、睦のことを思うと喜べない気持ちと、これまでの長かった自分の想いと、苦しさと、様々な感情が入り混じって涙が止まらなかった。  未知音も睦も和志も、希実が睦と兄妹ではなかったことが悲しくて泣いていると思い、口々に慰めてくれた。 「大丈夫だよ。今までだってずっと家族四人で楽しかっただろ?睦も希実も、俺の自慢の子供だって思ってるよ」 「そうだよ。私は睦も希実も生まれた時から見て来てるし、二人仲良く育ってくれて本当に嬉しい」 「うん、今までの時間は全部本当のことだから。希実に嘘をついてた訳じゃないから。世界でたった一人の妹だって思ってる」 ずっと泣いている訳にはいかない、皆の気持ちに応えないと、と思うと何とか普通と言われるようなところまで気持ちを整えられた。 「うん、ありがとう‥私は大丈夫。睦こそ‥」 「ああ‥うん‥俺も会いに行って来ようかな‥」 「え?本当に?」  睦の言葉に驚く未知音。 「うん、そうする。二人に何があったのか知りたい」 「そっか‥そうだよね‥」  未知音に同意する和志。 「‥会っておいでよ。ね、希実‥二人で待ってよう」 「うん‥睦がそう思うんなら会った方がいいと思う」  ため息をつき、餃子に箸をつける和志。 「あ、お父さん餃子温める?」 「本当?良かった、全然食べた気がしなかったよ。そうだ、ビールも飲んじゃう?」 「いや‥いい」  希実にあっさり断られシュンとなる和志。 「ごめんね‥父さん」 「いや‥そうだよな‥こっちこそごめん‥」 「餃子温めるね」  希実お皿を取り、フライパンに戻す。 「俺、飲むよ」  睦、冷蔵庫からビールを二本とり、片方を開けて和志のコップに注ぐ。 「ありがとう」  ごくごくと飲む和志。 「はー‥何もしてないけど‥何か疲れた‥」  餃子をテーブルに出す希実にお礼を言う睦。 「ありがとう‥何か、帰ってきた時母さんと父さんがすごい不安そうな顔してたから、これ大丈夫かな‥父さんと母さんの方がヤバいかもなって心配になったよ」 「あはは、ごめん。私達そんな顔してた?」 「そうかもな。睦の顔見たら、ああついに言わなきゃいけない時が来たって思ったけど、睦がいてくれるなら大丈夫だって思えて‥いかん、父親なのに俺の方が頼ってるな‥」 「全然いいよ。そんな父さんが好きだし、意外に俺も頼ってる」 「本当?…どこが?俺に頼れるとこなんてあるの?」 「あるよ」 「え?どこ?」 「‥何か時々なんだけど、俺一人なのかなって思ってしまうことがあって‥」 「‥」 「‥でも父さんがいると大丈夫って思えるっていうか、自分のいる場所がどこなのかふと分からなくなっても、どこにいても父さんは変わらずに目印みたいにいてくれる感じがして、すごく安心する。頼ってるのは本当は俺の方だよ」 「違うよ。睦は皆に頼られてしまって、じゃあ睦は誰に頼るんだろうって思うと‥俺も、何か睦がどこにいるのか分からなくなって、何か怖くなるんだよ‥」 「‥大丈夫だよ。学校でも大園先生に頼ってるし、それに誰かに頼って貰えるのは嫌なことじゃないから」  二人の話を聞いている未知音。冷蔵庫からビールを一本取る。 「やっぱり私も飲もう。希実は?飲まないならお風呂入っちゃう?片付けやっとくよ」 「うん、じゃあそうする。付き合わなくてごめんね」 「無理することないよ」  睦の言葉に頷き、二階へと上がっていく希実。 「やっぱりショック大きいよね‥」  未知音、ビールを飲む。 「うん‥でもここを超えないと‥」  自分に言うように呟く睦。 「大丈夫だよ‥睦はうちの子だから。睦の気持ちが本当のお父さんへ焦がれるように向かっても、逆に拒絶に向かっても、睦がここで育ったってことは、ずっとここにあるから。安心して行っておいでよ」  睦を励ます和志。 「‥うん」

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