re 前世
15 沙耶良さんの気遣い

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 希実、仕事帰りに沙耶良の家へ寄っている。タンポポ茶とプリンを買って来た希実、沙耶良と二人で話しながら食べている。近くのベビーベッドで眠っているきぬ。少し大きくなっている。  兄が本当は母親の亡くなったお姉さんとその恋人との子供で、自分とは従兄妹関係にあるということが分かったこと。兄の本当の父親に母と兄とで長崎へ会いに行ったことなど、沙耶良に話す希実。  驚く沙耶良だったが、実の兄を好きだという希実の長年の苦しみから希実が解放されたことを良かったと言ってくれた。沙耶良が自分の気持ちを分かってくれたことに、嬉しく思う希実。 「兄はこれからもずっと妹だからって言ってくれて‥その状況は変わらないんだけど、でも兄が結婚してもそれはそれで少しづつこれから慣れていこうと思ってる。今は本当の兄妹ではなかったってことが私にはやっぱり嬉しくて、今はそれだけで何か神様に許して貰えたようでホッとしてる」 「そっか‥すごいな‥今希実さんがそう思えてるのは、希実さんが余程苦しかったからなんだろうなって‥本当にすごいと思うけど、何か切ないな‥」 「ううん、私は沙耶良さんの方がすごいと思うよ。自分の思いをちゃんと叶えていっていて、この人のどこにそんなパワーがあるんだろうって不思議に思うし、綺麗だなって‥見てるだけで私も頑張らないといけないなって思えてくるよ」 「そんな、全然そんなことないのに‥」 「ううん‥沙耶良さんに会えてなかったら私、誰にも話せずにいっぱいいっぱいになって無理だったかもしれない‥」 「私もだよ。こんなこと共有出来る人に会えるなんて、最初は想像もつかなかったな‥」 「不思議な出会いってあるんだね‥」 「うん。あると思う」  沙耶良に聞いて貰えて、更にこれまでの思いがワントーン落ち着いたように思った。沙耶良との出会いはこれまでの苦しみを知っていてくれた神様からのプレゼントのように思えた。  その日の夜、沙耶良から携帯へ電話がかかって来る。いつになく取り乱している沙耶良。 「もしもし‥どうしたの?‥沙耶良さん、落ち着いて‥一人?沙美莉さんは?‥そっか‥じゃあ、これからそっちに行くから待ってて。すぐ行くから‥」  電話を切り、下へ降りる希実。  睦が玄関から入って来る。 「ただいま‥どうしたの?」  急いでいる様子の希実に声をかける睦。 「睦、丁度良かった‥あの‥申し訳ないんだけど、運転お願いもしていい?」 「うん、大丈夫だよ。何かあった?」 「友達の家まで送って欲しいの。赤ちゃんがぐったりしてるって電話が掛かって来て‥でも私お酒飲んじゃって、今母さん起こそうかなって思ってたとこだったんだけど‥」 「そうなんだ。急いだほうがいいね‥俺行くよ。家どこ?」 「美浜町の方なんだけど」 「じゃあ、このまま出よう」 「うん」  沙美莉の家へ出かけていく睦と希実。    沙耶良のいる沙美莉の家へ着いた希実。  沙耶良、きぬを抱っこしている。  希実、沙耶良に抱かれているきぬの様子を確かめている。少しぐったりしているきぬ。 「脱水気味なのかもしれない‥オムツはいつ頃替えた?」 「そういえば、大分替えてないかもしれない‥何度か確かめたんだけど全然濡れてなくて‥それにずっと寝てるの‥何か怖くなって‥」 「起こして母乳あげてみて。お白湯も哺乳瓶であげてみた方がいいかもしれない。私、作るね」  希実、哺乳瓶にポットからお湯を入れ、水で冷やし始める。 「暖房が効き過ぎてるのかもしれないな‥下げてもいいかな?」 「うん、ごめんね」  希実、暖房の温度を下げる。 「‥少し様子を見て、それでも快復しないなら病院に連れて行ってみた方がいかもしれない‥車で兄が待っててくれてるからその時は私も一緒に行くね」 「え?お兄さんいらっしゃるの?そんな、あがってもらって」 「うん‥じゃあいいかな?少し時間かかるもんね‥ごめんね、じゃあ連絡してみる」 「こっちの方がごめんね‥そっか、お兄さん素敵な人なんだね‥」 「あはは‥こんな時どう言ったらいいんだろう‥有難うも変だし、そんなことないって言うのも変だし、何か慣れてなくてこそばゆいんだね‥」  人肌まで下がった哺乳瓶を沙耶良へ渡す希実。 「ありがとう」  沙耶良、哺乳瓶のお白湯をきぬに飲ませる。  じっと様子を見ている沙耶良と希実。 「あ、顔色少し戻ったかな?」 「うん、少し良くなった気がする‥」  少し緊張が解ける沙耶良。  睦へ電話を掛ける希実。  暫くして睦が部屋へ入って来る。 「あ、兄です」  希実が沙耶良に仁を紹介する。  沙耶良、きぬにお白湯を飲ませながら睦に挨拶する。  ぎこちなく沙耶良に頭を下げる睦。 「何かすみません。車で良かったのに‥気を遣って貰って‥赤ちゃん大丈夫ですか?」  沙耶良に抱っこされているきぬを見る睦。 「はい。少し落ち着いたみたいで‥助かりました。どうぞ座って下さい」 「はい‥」  所在なさげに端っこの方に座る睦。 「チーフに電話して乳児用のイオン飲料飲ませてもいいのか聞いてみるね」  チーフに電話を掛ける為、廊下に出る希実。  緊張して座っている睦。 「‥落ち着いたなら良かったですね。このまま回復するといいけど‥」 「はい‥きぬに何かあったらって思うと、一瞬で血の気が引いたみたいに怖くなって‥駄目ですね‥一人で育てていくって覚悟して生んだつもりだったのに‥」 「そうなんですね‥じゃあ二人分を一人で心配するんだから、余計にそうなのかもしれませんね‥すごいな‥」 「…」  突然涙が流れ出す沙耶良。 「‥え?大丈夫ですか?‥あの‥」  突然のことに慌てる睦。  廊下から戻って来る希実。 「じゃあ、それで様子をみてみます。お仕事中すみません。ありがとうございました」  沙耶良が泣いているのを見て、急いで電話を切る希実。 「どうしたの?沙耶良さん?きぬちゃんどうかした?」  心配そうに沙耶良に声を掛ける希実。 「ううん、何でもないんだけど‥何か、覚悟が足りなかったのかなとか‥結局皆に迷惑ばっかりかけて‥全部自分でやろうって思ってたのに‥甘かったな‥」  落ち込む沙耶良に声を掛ける睦。 「‥どれだけ万全に準備してても、やっぱり予想外のことは起こるんだと思うし、準備不足な訳じゃないと思います」 「そうなんでしょうか‥これでいいのかな‥間違ってないのかな‥」 「きぬちゃんに会えたんだもん。間違ってないよ」  沙耶良に抱っこされて寝ているきぬ。 「そうだね‥絶対きぬに会うって決めたんだもんね。今度こそ私が守るんだって思って‥」 「‥」  沙耶良の言葉を少し不思議に思う睦。 「‥まだ生まれてから3週間も経ってないのに、こんなとこで弱気になってたら駄目だよね。絶対何があっても今度こそ離れない」  意味が分からないけど聞けず、戸惑っている睦。  睦の怪訝そうな様子を感じる沙耶良。 ふと、もしかして私‥夢のことを希実さんのお兄さんに話した方がいいんじゃないかな‥という思いがよぎる。何故か分からないけど、そうした方が二人の為になるような気がする。  口を開く沙耶良。 「あの‥希実さんには話したんですけど‥変な話なんですけど‥私、きぬを生む前にずっと同じ夢を見てたんです。それで、きぬを生むことを決めたんです」 「‥夢ですか?」  夢と聞き、ドキッとする睦。  希実も、沙耶良が夢の話をしたことに驚いた。でも、何となく自分のことを思って話してくれているような感じがしていた。 「はい。その夢の中で、妹であるきぬと離れ離れになるんです。悲しくて悲しくて絶対にまたきぬに会うってその夢の中で思うんですけど、夢が覚めても現実でもその思いが消えなくて」  自分の夢と重なる睦。 「何故か分からないけど、今世できぬを子供として授かるんだっていう思いが心の中に湧いて来て、今生まないときぬに会えなくなってしまうって何か分かったんです‥」 「‥」 「変なこと言ってすみません‥どうかしてますよね‥」 「いえ‥」  黙り込む睦。 「でもきっと誰だってどこか変なんだよ‥私だって変だし‥」 「‥うん‥ありがとう」 「ううん、私こそありがとう」  希実の言葉を素直に嬉しく思う沙耶良だが、睦はどういう意味なんだろうと少し分からなかった。  希実、きぬの様子を伺う。 「大丈夫そうかな?」  きぬ、小さく泣き声をあげる。 「あ、起きたかな?涙も出てるね‥オムツはどうかな?」 「あ、オムツ濡れてるかも。良かった‥」 「じゃあ、少し様子見て貰って‥少しでも不安だったら絶対連絡してね」 「うん。本当に有難う。もう本当に感謝です」 「あはは。何かそんな沙耶良さん初めて見た。いつも落ち着いてる感じだから、何か新鮮で嬉しい」 「え?全然私なんて駄目だよ‥希実さんの方がしっかりしてそうに思ってた」 「全然そんなことないよ‥あ、ごめんね、遅くまで。そろそろ帰るね」 「うん、気を付けて。本当に有難うございました」  睦に頭を下げる沙耶良。 「ああ、いえ。本当に良かったです」  きぬの状態を確認し帰って行く希実と睦。  運転している睦。 「沙耶良さんって学生時代の友達?」  後部座席の希実に話しかける。 「ううん、うちの病院で出産されて、その時に知り合ったの」 「へえ‥珍しくない?」 「‥退院した人と連絡とってるのは初めてかな‥」 「他の人と何か違ったんだろうね‥」 「うん‥そうだね‥何か沙耶羅さんとは不思議な繋がりがある気がする‥」 「俺も‥二人が信頼し合ってるんだろうなっていうのが何か見てて分かった‥」 「うん‥さっきの沙耶良さんの夢の話なんだけど、私も似たようなことがあって‥私は夢じゃないんだけど、小さい頃からずっと何か映像みたいなものが自分の中にあってさ‥それを初めて話せたのが沙耶良さんだったの。それで、退院されてもまた会いたいなって思ったんだ‥そしたら沙耶良さんも同じように思っててくれたみたいで‥すごく嬉しかった」 「映像‥」 「うん‥まあ‥私の場合はそんな大したことじゃないんだけど‥」 「‥」  少しいたたまれなくなり気分を変える希実。 「遅くなったね‥ご飯食べる前だったんだよね‥ごめんね‥」 「全然‥きぬちゃん可愛かったな」 「うん、美人さんだよね」 「そうだね」  家に着く二人。 「ありがとう」 「うん」  車を降りる。  その夜ベッドに寝ている睦。じっと考え事をしている。  沙耶良さんの見た夢と俺の見た夢と、どこか似てるんだろうか‥あの夢に何か意味があるのかな‥希実は小さい頃から映像が自分の中にあったと言ってたけど‥それって、俺の見た夢と同じなんだろうか‥小さい頃言ってたあのことなのかな‥だとしたら、ずっと希実はどう思っていたんだろう‥

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