re 前世
13 睦の長崎出張②

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 ホテルに帰って来た未知音と睦。 「良かったね‥いい人だったね‥」 「うん、良かった‥」 「お父さん達に報告しなきゃ、きっと心配してると思う」 「うん」  携帯で和志に電話をする未知音。  睦、ホテルに置かれている観光パンフレットを手に取る。  電話を切る未知音。 「睦、良かったねって言ってた」 「そっか‥」 「はー‥あ、パンフレット?そっか、観光もしに来たんだもんね」 「うん、せっかく来たんだから色々見ていこう」 「そうだね。どこのパンフレット?」 「色々あるみたいだよ。稲佐山とかグラバー亭、オランダ坂、大浦天主堂、原爆ドーム、雲仙‥」 「二日間でどれくらい回れるかな。楽しみだな‥」 「明日は長崎市内を観光して、それから移動して雲仙に泊まる?雲仙って温泉だよね?ちょっと遠いかな‥」 「行きたい!朝早くからまわろう。お土産も買わないと。忙しいけどこの際だから色々行きたいな。睦と二人なんて、きっと今回だけだろうね」 「確かに‥そうかもね」 「あ‥ハウステンボスは?」 「いや、それは無理じゃない?」 「えー‥ハウステンボスも行きたいな‥」 「じゃあ、長崎市内を諦めるか、雲仙を諦めるか‥どうする?」 「うわ‥どうしよう‥」  ひとしきり話をして、眠りにつく未知音。  睦、西岡の話を反芻している。 「父さんと母さんか‥でもまだ西岡さんと未来音さんって感じだな‥あ、写真撮って貰えば良かったな‥未来音さんの写真に会わせてやりたいな‥」  眠りにつく睦、その夜夢を見る。 <前世>江戸時代後期  眼下の景色に呆然となる仁。  噴火の影響で山崩れが起こり、山崩れの影響で津波が起こり、二重災害に見舞われていた。 「父さん‥」  一人佇んでいる。  伯父に連れられ肥前へと歩いて行く仁。  ある日、川沿いを歩いていると倒れているかおを見つける。  籠にいっぱいになった南蛮きびの重さで転んでしまう仁。 「あ‥」  かお、家の縁側に立ち、仁の姿を心配そうに見ている。  転んでいる仁、遠くで見ているかおに気付き、慌てて立ち上がろうとするが籠の重みでなかなか立ち上がれない。 「‥仁‥ちゃん」  かお、思わず外へ出ようとする。 「く‥」  仁、力を入れて立ち上がる。  ほっとして仁に向かって手を振るかお。  少し笑って小さく手を振り返す仁、籠の中の南蛮きびを台車へと運んで行く。 「‥かお‥ちゃん」  口にすると何だか頑張れそうに思う仁。 <現代>  ふと目を覚ます睦。 「…」  上半身を起こし、呆然としている睦。 「‥今の、何だったんだろう‥夢?」  気配を感じ、未知音が目を覚ます。 「睦?‥どうしたの?」 「あ‥ごめん‥何か夢見て‥」 「怖い夢?」 「いや‥何か‥不思議な夢で‥希実にそっくりな女の子が出て来て‥」 「‥希実じゃなくて、そっくりな女の子なの?」 「うん‥何か時代劇みたいな着物着てた‥」  まだじっとしている睦。 「へえ‥気になるの?悪い夢だった?」 「いや‥大丈夫‥」  ふと現実に戻る睦、心配そうな未知音の顔に気付く。 「そんなんじゃないから気にしないで」 「‥そう?」 「あ、そうだ。観光どこ行くか決めた?」 「そうだった‥やっぱりハウステンボスは諦めようかな。市内観光と温泉は行きたいもんな‥睦は?どこ行きたい?」 「俺は‥とりあえず温泉は泊まりたいかな」 「そうだよね‥よし、じゃあそうしよう。起きよっか」  身支度を始める未知音。  立ち上がる睦。 「本当に何だったんだろう‥」  何となく窓の外を眺める。長崎の街並みが見える。  長崎市内観光をしている睦と未知音。  グラバー園、オランダ坂、大浦天主堂、中華、等観光を満喫する二人。  ビードロを買っている未知音。 「お土産?」 「うん、瑠衣ちゃん喜んでくれそうじゃない?」 「うん、好きそう」 「本当?良かった」  嬉しそうな未知音に微笑む睦。  雲仙行きのバスに乗っている二人。 「‥そう言えば前にさ、瑠衣に俺達の小さい頃の話をしたって言ってなかったっけ?あれって何の話だったの?」 「あはは。あれね‥確か瑠衣ちゃん家の話をしてた時、瑠衣ちゃんが自分にも兄弟がいてくれたらなって言ってて‥睦と希実みたいな兄妹が理想なんだって言ってくれて嬉しくて‥」 「‥」 「‥でも睦と希美が一度だけケンカしたことがあるんだよっていう話をしたんじゃなかったかな」 「ケンカ?したっけ?」 「うん。二人共小学生くらいだったと思うんだけど、睦が初めて女の子に何個かチョコ貰って来てさ‥その中にフルーツチョコがあって、睦が希実が好きだからって半分とっといてあげたの‥」 「‥そんなことあったかな?」 「うん‥睦は希実のことを思ってだったんだけど、希実は睦が貰ったんだから睦が食べた方がいいって怒って睦に返してさ‥」 「‥」 「何か二人気まずくなってそれっきりその日一日ずっと口きかなくて‥それで和君が二人の通訳みたいにお互いの言い分を伝えに行って、何度も部屋を行ったり来たりして」  思い出し笑いする未知音。 「そうだっけ‥」 「でも次の日には二人共普通に話してたけどね」 「‥覚えてないな」 「瑠衣ちゃんに話したら可愛いって笑ってくれてた」 「恥ずかしいな‥」 「‥でも何で希実あんなに怒ったんだろって思ったな。希実の言う事も分かるけど、睦は半分食べたんだし、希実を思ってのことで‥怒ることはない気がしたんだよな‥」 「‥」 「結局二人共食べなくて‥仕方ないからって和君が食べたの‥チョコ苦手なのに‥」  愛おしそうに笑う未知音。  窓の外を見ると遠くに雲仙が見えている。  夕暮れの中、雲仙岳の地獄めぐりをしながら、温泉ホテルに着く。  部屋に入る睦と未知音。 「疲れたね」  荷物を片付けている未知音。  窓際に立つ睦。 「うん‥でも長崎って本当に綺麗なところなんだな‥色んな歴史が残ってて、いいことばかりじゃないし、やりきれなくもあるけど‥こんな所他にないね‥」  窓から外の景色を眺める睦。岩場から煙や湯気があちこちから噴き出している。 「そうだね‥何となく切ない感じが残るような、何か心惹かれる街だね‥来て良かったな。睦の出張のお陰だね。それと西岡さんがこの街に住んでいてくれてたお陰かな‥」 「不思議なことが起こっても、不思議じゃない感じがする」 「うん、西岡さんも思ったより自然に睦のことを受け入れてらっしゃって‥考えてみれば不思議だった‥」 「うん、そうだね‥」 「温泉入って来ようかな。睦は?」 「俺、少し外歩いて来ようかな」 「分かった。じゃあ、鍵持って行っとくね」  温泉の準備を始める未知音。  外に出て、温泉地獄やお土産屋などを眺めて回る睦。  大きな観光地図を眺めると『雲仙噴火歴史館』と書かれているのに目を止める。 「雲仙噴火歴史館‥」  何となく気に掛かり、そちらの方へ歩いて行くと、白い建物が建っている。 近づき、入口に貼られているチラシやガラスの向こうの立て看板を見ている睦。睦に気付いた係りの人が近寄って来て話しかける。 「入んなはるですか?あと30分で閉館とですけど。どげんしなはりますか?」 「あ、すみません。‥入っても大丈夫ですか?」 「あんまり時間のなかけん全部は観られんと思いますけど、それでもよかならどうぞどうぞ」 「ありがとうございます」  資料館の中へ入る睦。噴火の歴史や当時の被害状況などをじっと見つめる。 「これって‥」  夢が蘇ってくる睦。 「昨日見た夢にも土砂災害の跡を見ている景色が出て来てた‥」 戸惑いながら江戸時代に起こった噴火の内容を見ていく睦。 「‥あれって江戸時代だったのかもしれない‥言葉もこの地方の人の言葉に似てたかも‥」  閉館を告げる放送が響き、資料館を出る睦。  ホテルまでぼうっと考えながら歩いて行く。  ‥どういうことなんだろう‥あれは本当にあったってこと?‥じゃあ、希実に似てるかおっていう子も本当にいたのかな‥まさかな‥でも何であんな夢を見たんだろう‥ただの夢なんだろうか‥どこかでそんな話を聞いたことがあって、それが夢となって現れたのかな‥じゃなきゃ、あり得ないよな‥  いつの間にかホテルの前に着いていた睦、ふと振り返り雲仙の景色を眺める。  部屋に戻った睦、時折ぼんやりしながらも、未知音と二人楽しく食事をとる。  翌日の飛行機の時間を確認し、眠りにつく睦と未知音。  睦、夢を見ている。 <前世>江戸時代後期  一緒に山歩きをしたり、川遊びをしたりして過ごす仁とかお。 「‥奉公はきつかと?」 「うんにゃです。うちんとこの庄屋さんは優しか人やけん‥父さんも母さんもそれで決めらしたとです。そろばんと字も教えて貰えて、ご飯も毎日食べられるし、だけん嫌とじゃなかとです」 「そげんと。良かった」 「仁ちゃんは?お父さんと二人で暮らしよったとですか?」 「うん。父さんはお役人さんに頼まれて水車の作り方ば教えたり、薬草ばあちこちから採って来て薬草畑ば作ったり‥何でん出来る人やった。どこに行ってんすぐに誰とでん仲良うならすけん、父さんとおるとはほんなごつ楽しかった」 「‥へえ、すごかですね」 「うん。俺は生まれた時からずっと父さんに付いてまわっとったらしくて‥母さんは俺が生まれてすぐ死なしたげなけど、やっぱり寂しくなかったわけじゃなかけど、寂しがったらいけんごと思ったし‥」  涙を拭う仁。 「かお‥ちゃんは?避難所で見つからんでん、皆どこかで生きとんなはるかもしれん」 「はい‥そげんも思うとけど‥何か、あん時‥皆がおらんごつなる気がしてから‥何か胸騒ぎの収まらんで、それで奉公先ば飛び出して来てしもて‥」 「‥」 「避難所で隣の家のおばちゃんに会うて‥家が土砂にのまれて流されていくとば見たって泣きながら教えてくれなはって‥でんやっぱりもしかしたらって思うともあるけど‥でんもう、二年して奉公が明けても誰も待っとってくれんとも思って‥」 「‥うん」 「でん、ここで仁ちゃんたちが待っとってくれよらすって思ったら、何か元気になれると思ったとです」 「うん‥俺もやけん‥俺もかおちゃんば待つことで元気になれるけん‥」 「そげんとですか?」 「うん」  山菜と花を摘んで家路につく仁とかお。  仁とかお、島原の見える場所を探して、二人で森の中を走っていく。  丘の上に立ち、遠くの土石流の被害跡を見下ろす仁とかお。 「‥いつか一緒に家族ば作ろう」 「‥家族ば?」 「うん。もう少し大きくなったら一緒に作ろう」 「うん‥そげんやね、そげんなったらよかね」  手を繋ぎ、傷跡の深い町並みを見つめる仁とかお。  かおが伯父と一緒に奉公先へと旅立っていく。  じっとその姿を見送っている仁。  一度かおが振り返って手を振る。  かおに手を振り返す仁。 「大丈夫やけん、二年したら戻って来るとやけん、待っとくけん」  姿が見えなくなるまで佇んでいる仁。   <現代>  目を覚ます睦。口もきけずただ、今見た夢を反芻している。  随分経って、未知音の携帯のアラームが鳴り未知音が起きる。  今度は夢について未知音に何も話さなかったが、ただの夢ではないという思いが睦の胸の中に起きていた。だったら何なのか説明はつかなかった‥そして、夢の中のかおへの想いが実際に自分が思ったこととして、心の中に残った。ただかおが希実なのか、仁が自分なのか、やはり分からなかった。そうして、長崎から家へと帰って行った。

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