re 前世
1 私だけなんだと気づいた時

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 <前世>江戸時代後期  丘の上に立ち、遠くの土石流の被害跡を見下ろすじんとかお。 「俺も、父さんも母さんももうおらっさん」 「うちも‥父さんも母さんも竹一郎もきよも‥もうおらっさん‥うちにはもう家族は一人もおらんとやね‥もう家族が出来ることはなかとやね‥」 「うんにゃよ‥いつか一緒に家族ば作ろう」 「‥家族ば?」 「うん。もう少し大きくなったら一緒に作ろう」 「うん‥そげんやね、そげんなったらよかね」  手を繋ぎ、傷跡の深い町並みを見つめる仁とかお。 <現代>20年前   『5歳 お誕生日おめでとう』と書かれたケーキのロウソクを吹き消す成田希実なりたきみ、どことなくかおと似ている。  希実の隣に座っている兄の成田睦なりたぼく、仁と似た容姿である。  テーブルを挟んで二人の向かい側に座っている父親の和志かずしと母親の未知音みちね、ロウソクが全部消え一斉に拍手する。  三人の拍手に嬉しそうに笑う希実。テーブルには未知音の手料理が並んでいる。 「希実、おめでとう」  睦が希実にプレゼントを渡す。 「いいの?」 「うん、お年玉貯めといたから」 「嬉しい‥」  照れたように頭をかく睦。  希実がプレゼントを開けると鍵付きの可愛い木箱が入っている。 「可愛い‥ありがとう、睦」 「うん」 「希実ももう5歳か‥早いね、未知音‥」  感動して涙ぐむ和志。  未知音がロウソクを抜いていき、ケーキを切り分ける。 「希実も睦もゆっくりでいいからね。そしてこのままずっと俺達4人で暮らそう。二人共ニートになってもいいんだからね。だからこの家出て行かないでね」  二人に言い聞かせるように話す和志。 「え‥俺ニートなんてやなんだけど」  睦、冷静に答える。 「そうだよ。そりゃあずっとこうしていられればいいけど、そうはいかないでしょ?二人にはそれぞれ、いずれ一緒に生きていく人がきっと現れるんだよ」  未知音の言葉にキョトンとする希実。 「え?希実は大きくなったら睦と家族になるんだよ」 「ん?‥どういうこと?だってもう希実と睦は家族じゃない?」 「そうだけど‥そうじゃなくて‥大きくなったら二人で結婚して家族を作るの」 「え?兄妹は結婚出来ないんだよ。だから希実と睦は結婚は出来ないの」 「嘘だよっ」  未知音に反論する希実。 「希実、パパとなら結婚できるよ」  茶々を入れる和志にむくれる希実。 「いい」 「うっ‥」 「だって‥希実は睦と結婚するために生まれて来たんだよ。睦と約束したんだもん」  未知音に必死に訴える希実。 「え?」  驚く睦。 「いつ?」 「ずっと前だよ。睦が仁だった時」 「‥仁って?」 「え?仁だよ。睦の前の時の名前でしょ?」 「‥」  不思議そうに顔を見合わせる睦と未知音、和志。 「睦はずっと生まれた時から睦だよ‥仁って誰のこと?」 「‥仁は睦の前の名前で、希実は前はかおっていう名前だったの。ね?」 「え?」  希実に問われ、戸惑いで言葉が出ない睦。 「睦‥覚えてないの?」 「‥どういうこと?」 「仁だったことだよ‥」  睦の反応に深く落胆し、思わず涙が零れる希実。 「ごめん‥希実、どうしたんだよ。泣くなよ‥」 「だって‥」  泣き出す希実に訳が分からずただ謝る睦。  睦同様、意味が分からずに顔を見合わせる未知音と和志。  希実の部屋。絵本やぬいぐるみなどが可愛く飾られている普通の5歳の女の子の部屋。  ベッドに入っている希実に添い寝している未知音。 「ねえ希実‥さっきのことだけど、もう5歳になるんだからさ‥睦と結婚するなんて言って欲しくないな‥」 「どうして?」 「そんなこと言うとさ、周りの人達に変な子だって思われちゃうんだよ‥」 「そうなの?」 「うん。だからあまり言って欲しくない‥」 「…じゃあ、言わなかったらいい?」 「‥そうだね。とりあえず言わないでいてくれたらいいよ」 「分かった‥もう言わない‥」 「うん、ありがとう」 「‥ねえ、ママは未知音になる前は何だったの?」 「え?」 「希実はかおだったんだよ‥希実になる前‥」 「‥希実になる前?それどういうこと?」  未知音の顔をじっと見つめる希実。 「‥ううん。やっぱりもういい」 「‥」  希実の髪を撫でる未知音。寂しげな希実、目を閉じる。 「‥希実は変な子なの?」  一人小さく呟く希実、そのまま眠りにつく。

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