作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 君はきっと何も憶えていないだろう。と、ノートの文字は親しげに語りかける友人のようにつづられていた。筆跡にも見覚えはない。  それを読むしかない私は、ただ読み進めた。  そこには、このようなストーリーが記されていた。  君、つまり私だろうか。君は、とある製薬会社の新薬の臨床実験に応募した被験者だった。その薬によって、君の持病は治ったのだが、一ヶ月ほどして、驚くべき副作用が現れた。  毎日、三時頃になると、一切の記憶を失ってしまうのだ。自分の名や素性すじょう、ほんの一時間前まで、どこでどうして過ごしてきたのか、全て忘れてしまう。  手元に残るのは一冊のノートと手荷物だけ。ノートにしるされた文字が、自分は何者で、これからどうすればよいのかを教えてくれる。  生活費のことは心配しなくていいよと、ノートは語っていた。製薬会社からの示談金じだんきんで、君は一生食うに困らない程度の金を持っている。  通帳やキャッシュカードは手元のカバンに入ってるよ。  行って確かめてごらん。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません