これを書いたのは私だろうか。 ふと疑問に思い、私はノートのページをめくった。 黒い表紙のハードカバーのノートに書きつけられているページは、初めの方の数ページだけで、それはもう読んでしまった。 残りのほとんどのページは、何も書かれていない白紙のままだ。 もしやと思いカバンを探ると、革製のペンケースがあり、中に万年筆が入っていた。 私は店員に今日の日付を聞き、怪しむ目で見られながら、ノートの続きのページに万年筆でその日付を書き付けてみた。 20✕✕年、某月某日。〇〇という店で夕食をとった。ハンバーグステーキとライス。ソースが少々、塩辛い。 どうでもいいことだが、書いてみると、私の筆跡が、初めにノートに書き記されていた文章の文字と同じであることが判った。 私の意識は失われるが、ノートに書いた文字は残る。それによって、私は明日の私にわずかばかりでも、今日の記憶を遺せるのではないだろうか。 しかし、それがハンバーグとライスか。 私は笑った。目覚めてから、おそらく初めて、笑った。
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