「ありがとうございましたー」 店員に頭を下げられながら、アーロンたちは店を出た。 結局ナタリーのお眼鏡にかなったのは、一番初めに着た紺色のパンツと蝶ネクタイ、サスペンダーのものだった。 「パパ、お腹空いたー」 店の中でつまんなそうな顔をしていたミアが不満気な声を出した。 「そう言えばもうそんな時間か。お昼なに食べたい?」 「お星さまキャンディー!」 「それはご飯じゃないだろ? お昼ご飯の後に連れて行ってあげるから」 「えー!」 駄々っ子のようにアーロンの腕を振るミアを、ルイスが宥めた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「早く! 早く!」 「はいはい。あんまり急かさないでね。足がもつれちゃうから」 興奮したようにアーロンの腕をミアが引っ張っている。 ミアが行きたいと言っていた、例のキャンディーが売っている店にやって来ていた。 訪れたその店の外観は他のどの店に比べても異質だった。 大きな木の幹の根元の方に少しメルヘンな扉が取り付けられ、どういう原理なのかまるで生きているかのように枝が時折ゆっくりと動いていた。 枝が動く度にふわりと落ちて来る木の葉は、地面に落ちて暫くすると透明になって消えていた。 ミアとノアはワクワクとした顔でその店に入って行こうとしていた。 入る事を躊躇しているロボの後ろに、アーロンが立った。 「こういうお店入ったことないでしょ。行ってみようよ」 背中を押され、ロボもその店に入って行った。 店の中は外観から想像できる通り、大きな木をくり抜いたような内装になっていた。 高い天井の上の方には星の形に作られた灯りがふわふわと浮かび、建物の中を明るく照らしている。 店いっぱいに並べられたテーブルには、沢山のお菓子や魔道具が並び、子供たちが真剣な眼差しでそれらを手に取り、吟味をしていた。 「一人300シェルまでですから。きちんと自分で計算してくださいね」 そう言いながら、ルイスは財布を取り出して硬貨をノアとミアに手渡した。 「いいや、折角来たから今日は500シェルまでいいよー!」 自身のポケットから布袋を取り出すと、アーロンは硬貨を追加した。 「はい、これはロボの分ね」 ロボの手の平に、アーロンは硬貨を置いた。 「えっ、いや、俺は別に」 硬貨を返そうとするロボの手を、アーロンが止める。 「大丈夫。みんなにあげてるから」 そう言われ、ロボは少し納得したように手を引っ込めた。 「ロボ君! これ! これ凄いんだよ!」 ミアに手を引っ張られ、ロボは店内の中央へと連れていかれる。 そこにあったのは、口に含めるぐらいのサイズの小さな球体が、棒に刺さった物。 透明な球体の中には、無数の星がキラキラと輝き、よく見てみればゆっくりと回転をし、時折流れ星が流れている。 「お星さまキャンディーだよ! ここの看板お菓子なの」 ミアはそれを1つ取ると、専用の籠の中に入れた。 「正式名称は星屑キャンディーなんだけどね。美味しいんだよ」 ノアはそれを2つ取ると、1つをロボの方へと手渡した。 「こんな綺麗な食べ物があったのか」 キャンディーを見ながら、ロボは呟く。 ミアはハッと何かに気が付いたように、ロボの手からキャンディーを取る。 「ここは私が奢ってあげよう。なにせお姉ちゃんだからね!」 「それなら僕だってお兄ちゃんだし、先輩だし! ミアだけズルいよ!」 ノアはミアの手からキャンディーを取ろうとする。 「ははっ。じゃあ、お姉さんお兄さんのお言葉に甘えようかな」 ロボは笑みを零した。 「これはね、封を切ると中から煙が出て来るんだよ。中には雲みたいなお菓子が入ってるの」 ミアは得意げな顔で買った物をロボに見せながら説明をし、ロボはそれを聞いていた。 沢山の荷物を抱えて、アーロン達は花屋への道を戻っていた道中、 買って貰った飴を舐めながら歩いていたノアが突然声を上げた。 「ハンカチが無い」 「えっ」 ミアの言葉にアーロンが反応する。 「どこで落としたの? 何処かでハンカチ使った?」 「トイレ行った時に使ったけど、その時かも……」 ノアは狼狽え始めた。 「お菓子屋さんで服に着いた菓子クズ払うのにも使ってたよ。その時に忘れてきたとかは?」 ミアが候補を上げる。 「取り敢えずお菓子屋さんに戻ってみようか。まだあるかもしれないし」 「私も行く。もし盗られてたら匂いで追えると思うし」 ナタリーが同行する意思を見せる。 「じゃあ、ルイスはロボと先にお店の方に戻って貰ってもいいかな? 帰り道は覚えてる?」 「大丈夫です。あ、なら荷物少し持って帰りますよ」 そう言うと、ルイスはノアとミアから荷物を受け取った。 「もしお店のご主人に会ったら、直ぐに戻るからって伝えておいて」 「わかりました」 そう言い、ルイスとロボは急ぐ4人を見送った。 特になにか会話する事もなく、花屋への道を2人で歩いていると、横を歩いていたルイスが突然歩みを止めた。 何事かとロボが振り返ると、ルイスの服を小さい子供が掴んでいた。 「木の枝にボールが挟まって取れなくなっちゃったの」 子供は時折何処かをチラリと見ながら言った。 「ボールですか? 先生がいれば確実なんですが……」 どうしたものかとルイスが考えていると、子供が付け足すように言う。 「お兄ちゃんの高さなら手が届くから、着いてきて」 そう言うと、子供はルイスの手をぐいぐいと引っ張りだした。 「わ、わかりました。わかりましたから」 ルイスは子供に手を引かれながら、ロボの方を振り返る。 「すいません、少し行ってくるので荷物任せてもいいですか? すぐに戻りますから」 ルイスは子供に手を引かれ、連れられて行った。
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