喫茶店フォレスタ
『創と和服』
男物の和服って珍しい」 「いつの時代だろ」 神社の中でなら言う人も少ないこの服装も、街中に出ると注目の的になる。時と場所を、とは言うが、マイペースを貫くためなら、創は微塵も気にしない。 「……衣装、ねえ」 婚約者である流海も、最初は洋服で話をすることが多かったが、いざ付き合い始める頃には、『和服を仕立てたい』と言ってきた。だから、創にとって和服が当たり前。 家族ぐるみの付き合いの美月や陽介からは、和の衣装について相談を受けることも増え、創の書斎にもそうした資料が入るようになった。時々、流海も真剣に資料を読み漁っている。そして、簡単なものなら自分で仕立ててしまうくらいには、彼女も慣れてきたようだ。 「……もうちょっと、くらい、こそこそと、やってもいいのに」 ふふ、と流海がせっせと創の書斎で縫い物をしているのを思い出し、創の顔がほころぶ。そう言う創も、夢中になっている流海のそばで、黙って本を読みふける。 楠家の衣装の手伝いに向かうその足取りは、少しだけ軽やかに。
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