喫茶店フォレスタ
『初恵と採寸』
「お母さんって、本当にパンツスーツが似合うよね」 と、陽介の言。「スラっとした体型に憧れる京ちゃんの視線ももっともだよね」と褒められ、少し照れながらも「ありがとう」と返事するのが、楠家の母である初恵だ。 その堂々とした、あるいは、芯の通った言動は確かに子供たちの理想となっていて、その母親の言葉に後押しされて兄たちが好きなものを追い求め、京子も母と兄たちの背中を追う。 対して、家族をそっと支えるのが、父親の盾である。穏やかで物腰柔らかな態度で、喫茶店の客も家族も関係なく、敬意とともに接する。子供たちが悩んでいることを一緒に考える。そうした姿に、初恵も「安心して任せられる」と信頼を置いている。 だからこそ、主張の強い色同士も混ざりあえる。そう考えて、子供たちが生まれたあとに始めたこの喫茶店『フォレスタ』を守っていこうと心に決めているのだ。 そして、先ほどの言葉に陽介が続ける。 「なんかこう、可愛い系とは違うんだよね……。綺麗系というか、ゴテゴテしすぎるよりシンプルに『美』を出したい……」 このとき、陽介が撮影衣装のために、初恵の採寸を改めて行っていた。衣装の系統を揃えたい陽介が、ああでもないこうでもないと毎回悩むのを、「夢中になっているな」と微笑ましく見つめる。 「昔はスカートも長いものが好きだったし、そういう感じで何かないか?」 「……うん、考えてみる!」 初恵の提案に、陽介は嬉しそうにメモを取ると、「ありがとー!」と衣装部屋を去って行ったが、着替えもなしに放置された母親から、後で頬をつねられたのであった。
応援コメント
コメントはまだありません