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俺のフルネームは『大和 昴』 苗字の大和も名前の昴も、それぞれ気にいっているし、両親がつけてくれたいい名前だとも思っている。 ただ、フルネームで呼ばれたときの居心地の悪さには、いつまでたっても慣れない。   病院の受付で、フルネームで呼ばれた時なんか(え?なんかかっこいい。芸能人ぽい名前…どんな人?)という期待に満ちた空気が流れ、俺が受付にむかうと空気が一転、落胆に変わる。    学生時代は何度『名前負けしてる』と陰口をたたかれていたか。 あの時もそうだ。 2月のある日、会社でトイレに行こうとしていた時に、たまたま聞こえた、給湯室にいた女性社員たちが交わしていた会話。   (ねえねえ。営業に大和さんって、いるでしょ) (あ~いるいる) (なんかさ。今月の成績も、また2位なんだって) (へえ。入社してずっとそんな感じでしょ?見かけによらず…) (見かけと言えば、大和さんの名前知ってる?) (知らないけど。武とか?) (それがさ、昴って名前だって) (え~。あの見かけで?名前がもったいない) (だよね。お星さまどころか、鬼瓦みたいなご面相なのにね)   …ほっといてくれ。 なりたくてこんな顔に、生まれたわけじゃない。 というより、俺の顔だの名前だのを馬鹿にするということは、俺の両親を馬鹿にしてると同じことなんだぞ。 内心むかつきながらデスクに戻ると、部長が俺を呼んだ。   「はい」部長のデスクに近づく。 「大和君。先日きみが出してくれた資料だが、日づけが一か所、全角ではなく半角になっていたぞ」 (はあ?日づけは全角って、誰が決めたんだ?資料のデータの数字が、間違っていたならともかく)   どうでもいいと思える指摘にイラっとし、それでなくてもムカついていた俺は、日ごろはしない失言をしてしまった。 「ああ。そうですか」   言った途端、ヤバイ!と思いあわてて続けた。 「申し訳ありません。至急作り直します」 「いや。構わないよ。きみも忙しいだろうしね」 そういって、部長は手をひらひらと俺に向かって振り『席に戻っていいよ』と言った。   そうしてひと月ちょっと。 年度替わりとともに、俺はこの支社に異動となった。 もちろん表向きは、このところ営業不振となっているA市支社営業部へのテコ入れだが、実際のところ、あの時の俺の失言がなかったらこの異動もなかったはずだ。     続  
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