The Heart of the Tree
14 現場検証

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 事故のあった交差点に行くと10台近いパトカーと数十名の警察官が集まっていた。警察官はそれぞれの担当に分かれて現場検証をしたり、道路を封鎖したり、集まって打ち合わせをしたりしている。犯人の情報が入って来たのか、停まっていたパトカーのうちの3台がサイレンを鳴らして走り去っていった。  夜間の道路工事で使われているような照明器具により明るく照らされているところが事故現場なのだろう。交通事故の現場というと道路にガラスや金属片が散乱しているイメージがあるが、そのような物はほとんど見当たらず、横断歩道の手前から交差点の中心方向に向けて伸びている長いブレーキ痕とカゴが少し潰れただけの楓の自転車が路上にあった。自転車の損傷は少なく、大量出血の痕跡も無いので、俺は自分に「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせた。  数人の警察官が固定された照明に加えて手に持った懐中電灯を道路にあてながら、うようにして道路を確認している。おそらくは小さな遺留品を探しているのだろう。現場の交通規制をしている若い警察官が俺に声を掛けてきた。 「君、交通事故の現場検証中なんだ。あっちへ行ってくれるかな」 「妹がひき逃げされたんです」 「それはお気の毒に」  若い警察官は現場を仕切っている中年の男性に「キャップ、害者がいしゃのお兄さんだそうです」と俺のことを報告した。  現場の警察官は大半が制服か県警のロゴが入った作業服を着ていたが、キャップと呼ばれたその男性はジーパンにトレーナー姿だった。急遽呼び出されたから私服なのか、刑事だから私服なのかは分からない。しかし、その鋭い眼光は他の警察官とは明らかに違った。 「あー、ちょっといいかな」  俺はその男性から、楓に関する情報を色々と尋ねられたので、それに答えた。また、今のところ事故の目撃情報は無いこと、明らかに犯行車両のものと思われる遺留品は無いこと、救急搬送される前の楓から犯人の自動車の色を聞いていることを伝えられた。ちなみに現時点では車の色は明かせないとのこと。 「この交差点を直接映している路上カメラは無いんだ。離れた場所にある路上カメラやコンビニのカメラに映った通行車両から犯人を当たることになるが、画像を分析すれば犯行車両は特定できるだろう。自転車も預からしてもらって、付着した塗料が無いか調べさせてもらうよ」 「お願いします」  俺の自宅は街の中心部から離れており、楓が通う中学校からも4キロメートルぐらいの距離があるため、この地域の中学生は自転車通学が認められている。付近は元々田畑ばかりだったが、ここ10年くらいで急速に宅地化が進み、この地域よりも街の中心から離れた方向にもどんどん住宅が建てられている。  そのため、事故のあった交差点付近は朝と夕方の通勤、通学時間帯には、たくさんの自動車や自転車が通行する。しかし、19時を過ぎたあたりから交通量が減りはじめ、21時にもなると自動車は1分間に1~2台、自転車は数分間に1台程度の割合でしか通行しなくなる。楓が帰宅する22時頃になると通行する自動車も自転車も更に少なくなるので、目撃者が全くいないとしても不思議はない。  事故のあった交差点から、自宅と逆の方向に約200メートル離れた場所に楓の友達の家がある。楓はそこで友達と別れ、自宅まで一人で移動するというのが行動パターンだった。女子中学生に夜道は危ないからという理由で、両親が自動車で塾まで迎えに行くことも検討したが、自宅の近くまで一緒に帰る友達がいたために、楓は自転車で帰宅していた。今となっては、その選択が悔やまれる。  俺は寝付くことができずにいたが、夜中の2時過ぎに父が帰ってきた。母は病院に泊まり込むとのこと。楓は救急の処置が終わって集中治療室へ移動したとのことで容態は重体だそうだ。目立った外傷は左腕の骨折だけだが、頭を強く打っていることが問題らしい。  見た目では分からないが、頭蓋骨にひびが入っているそうだ。現段階では脳内の出血は微量で命に別状は無いレベルだが、時間が経って出血が進む可能性もあると言う。今は麻酔で眠らせており、夜が明けたら更に精密な検査が行われる予定と聞かされた。  父は俺に「早く寝ろ」と言ったが、楓のことが心配で、すぐに寝付けるわけがなかった。いつ、眠ったのかは覚えていないが、気が付けば朝だった。

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