The Heart of the Tree
4 木の精霊とテレパシー

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 非科学的な話ではあるが、俺のような能力者と木の精霊との交信について説明すると、能力者と樹木の間に飛ぶテレパシーは弱い電波のようなもので、100メートルぐらいしか届かず、それ以上離れると交信が困難になる。それ以内の距離であっても能力者が室内に居たり、両者の間に大きな建物があると交信は難しく、基本的に能力者から樹木のオーラが見えない状態であれば交信は不可能だ。  人間の能力者同士でも交信は可能で、交信可能な環境は木の精霊の場合と同じだ。俺と父との交信から言えることは、心で思ったことの全てが相手に伝わるわけではなく、包み隠さず本心がバレバレということは無い。相手に伝えようという意思を持って、言葉を発するように心に念じたことのみが相手に伝わるのだ。俺が木の精霊と会話をする時にも方法は同じであり、父と交信をする時と何ら変わりは無い。  ただし、人間の能力者と違って、木の精霊は人間の性格や感情を読み取り、健康状態を察知することもできるらしい。人間のポーカーフェースに秘められた喜怒哀楽はもちろん、人間二人を同時に見れば、二人の仲が良いとか悪いとか恋愛感情の有無まで正確に見抜けると言う。人間でも洞察力どうさつりょくの鋭い者であれば、人の性格や心情を見抜く能力を持っているが、俺にその能力は無い。なお、木の精霊が見抜いた情報に外れは無いそうだ。  木の精霊は気温、気圧、湿度や風の変化を感じ取り、おおよそ二四時間以内の天気をほぼ正確に予測できる。また地殻変動も敏感に感じ取るので、地震や火山の噴火も事前に察知できるそうだ。  しかし、これはあくまでも何らかの情報を素早く察知できるだけであって、木の精霊に予知能力は無いのだそうだ。榎さんは俺と茜の関係に警鐘を鳴らしたが、それは二人の心情を読み取って未来を予測し、予防的なアドバイスをくれたものだ。  本当に神が宿っている樹木の存在や能力のことは分からないが、普通の木の精霊は人間にパワーを与え、能力者にアドバイスをするのみで魔法使いのような事はできないと言う。つまり、榎さんは俺のテニスの実力を一瞬にしてプロ級にすることはできない。  しかし、俺は榎さんから授かるパワーのお陰で気力、体力が長時間持続する上に回復も早いので、毎日、他の部員の倍以上の練習をこなして実力を付けることができた。また、テニスの試合時間は長く、技術があっても気力、体力が続かないと勝てないので、榎さんから授かるパワーはテニスに「うってつけ」だ。それに運も味方をしてくれるので、実力が同じ程度の相手なら、ほぼ俺の勝ちになる。そんな具合に俺は榎さんの恩恵を受けている。  ただし、言い伝えによると樹齢を重ねた精霊は、自らの寿命と引き換えに一定の神通力じんつうりきが使えるらしい。木の精霊にその質問をしても、これもまた聞いてはならぬ質問らしく、はぐらかされて答えてはくれない。  ご先祖様からの言い伝えによると、天候に関することや人の命を助けることはできると言う。日照りの飢饉ききんの際に恵みの雨を降らせたとか、重病人の命を救ったとか、悪人をらしめて改心させた等の話が残されている。  俺の家の傍にある公園に松の老木が立っている。その松は、まるで盆栽のように整った形をした高さが一五メートルもある立派な黒松だ。江戸時代から生えているらしく、地域住民から「江戸松さん」と呼ばれて大事にされ、周辺の清掃、剪定、害虫対策等も行き届いている。  当然、この松にも精霊が宿っており、オーラに包まれているのだが、この松は俺と全く会話をしないし、人間にパワーも送るところを見たことも無い。俺だけでなく、父とも大叔母とも全く会話をしないそうで、父からは「人間嫌いらしいので、そうっとしておきなさい」と言われている。  そうは言われても、幼い頃はこの公園で遊ぶ機会も多く、俺は通算すれば百回以上は会話を試みたと思うが、全く会話をしてくれないので諦めた。大楠さん同様、俺は通学のために毎日、江戸松さんの近くを通るが、俺も江戸松さんもお互いにメッセージを発することは無い。  木の精霊は基本的に優しく、平和を愛している。長年、一所ひとところに留まって風雪に耐えて生き延び、人間の苦難を見つめ続けているのだから、神か仏のような心境になるのだろう。そんな中でも個性があり、榎さんのようにお節介なタイプもいれば、大楠さんのように優しく見守るタイプもいる。  山登りをすると森林開発で人間不信におちいり、罵声を浴びせてくる木の精霊に出会うこともあるが、古くから人里に生えており、しかも人間に大事にされているのに会話をしてくれない江戸松さんの心中は理解できない。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません