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 風呂から上がってテレビを見ていると、ようやく晩飯の時間になった。今日は中学3年生の妹が帰宅しておらず、両親と3人で食卓を囲む。バスケットボール部に入っている妹のかえでは中学校生活最後の大会に向けて、毎日猛練習を重ねている。そして、週に2回は練習が終わった後に塾で高校受験の勉強をして来るので、帰宅が22時頃になる。そのために楓が塾に行く日だけは、楓の帰宅を待たずに晩飯を食べるのだ。  楓は生まれつきの喘息持ちで体が弱かった。父は木の精霊からパワーを貰うために幼い楓を連れて、毎日、毎日、木の精霊のもとに通った。併せて水泳などの運動療法を行うことにより、楓の症状は少しずつ改善された。それでも、小学生のうちは季節の変わり目になると必ず体調を崩し、何日も学校を休んだ。運動は喘息治療のために仕方なくやっている感じで、決して得意では無かった。  そんな楓が中学校でバスケットボール部に入ると言い出した時には家族一同驚いた。俺は長続きしないと思っていたが、予想に反して楓は頑張り続け、昨年の秋にはレギュラーの座を勝ち取った。喘息は完治しておらず、今でも季節の変わり目には体調を崩すが、学校を休むほどではなくなった。  俺が中学生の頃は楓と喧嘩ばかりしていたが、俺が高校に進学して以降、ほとんど喧嘩をしなくなった。俺は中学時代に増して部活が忙しくなり、楓も部活をするようになったために、2人が同時に自宅にいる時間が減って、接点が少なくなったという事情もあるが、俺が少し大人になったというのが最大の理由だろう。  それまでは、つまらぬ理由で喧嘩を繰り返していたが、例えば、見たいテレビ番組が競合しても、録画をして後で見ればいいやと考えて譲るようになったし、お菓子の取り合いで喧嘩をするぐらいなら、食べなくてもいいと思えるようになった。  俺がそのような態度になったので、楓の態度もだんだん変わっていき、ここ最近は良い関係が続いている。時には楓から両親には内緒の相談をされることもあり、そんな時は兄として幸せに思う。かつては「妹なんて居なければいいのに」と思うこともあったが、今の楓は可愛い妹だ。  晩飯を食べ終わると俺はリビングのテレビを30分ぐらい眺めて、その後、2階の自分の部屋に移動して宿題を始めた。いつもの時間を過ぎても楓が帰って来ないなと思っていたところ、救急車の音が聞こえた。音の感じから、我が家からそう遠くないところに停車したようだ。心配をした父が様子を確認しようと外に出たらしく、玄関のドアが閉まる音が聞こえた。  俺は「まあ、大丈夫だろう」と思って宿題を続けていたが、数分後、玄関のブザーが鳴った。さすがの俺も心配になり、慌てて階段を降りた。玄関では、母が2人の警察官と対面しているところだった。  警察官の話によると、我が家から100メートルぐらい離れた場所にある交差点で楓が自動車にひき逃げをされ、救急車で運ばれたらしい。父が救急車に同乗して病院に行ったそうで、それを伝えるために父の依頼で我が家に駆け付けたという。楓に意識はあったようだが大怪我をしているらしい。  母はすぐに病院へ行こうとしたが、気が動転している母に自動車を運転させることは危険だ。俺は祖父母宅に飛んで行って、祖父に母を病院へ連れて行くように頼んだ。留守番をしながら連絡を待つことにした俺だったが、居ても立ってもおられず、気が付くと事故現場に向かっていた。

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