The Heart of the Tree
3 我が一族の掟

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 俺の名字は「庄屋しょうや」と言い、その名のとおり先祖は庄屋だった。天狗様から授かった特殊能力のお陰で、俺の先祖は木の精霊から多くのパワーを貰い、そのアドバイスに従うことで繁栄してきたのだ。ちなみに他人に能力の事を知られるとねたまれたり、恨まれたり、権力者に利用されたりするので、我が一族の者以外には絶対に秘密とされている。  我が一族の中でも特殊能力のことは、能力者と本家筋の許された者以外には教えてはならないというおきてになっている。現在、能力者以外で秘密を知る者は俺の祖父母と母だけだ。能力を持たない俺の妹は能力のことなど全く知らず、おそらく他人の家にとついで行くので一生知ることも無いだろう。  能力者である場合、その能力は生まれつき備わっている。能力者が他の能力者を見た時には精霊の宿る樹木と同じように人間の周りに白いオーラが見えるので、能力の有無は赤ん坊の時に分かる。  そして、能力者自身は三歳ぐらいになると自分が持つ能力が皆には無いと知る。特定の人間と特定の樹木の周りにだけ白っぽい光のようなものが見えるのは、自分と限られた身内だけだと気付くからだ。  よって、能力者は幼い頃から秘密を知ることになるが、子供の口を説得により封じることは難しい。そのため、俺は父から能力の事を限られた人間以外に話せば、雷に打たれて死ぬと言われていた。口外しても本当は死なないと教えられたのは高校生になってからだ。我が一族では、それほど厳格に秘密が守られているのだ。  山奥に行くと精霊の宿る樹木がたくさん生えていることもあるが、街中や人の手が入っている里山さとやまでは本数は限られる。俺の生活圏で木の精霊が宿る樹木は五本程度で、そのうち日常的に接する樹木は三本だけだ。学校の帰り道、その一本である楠の大木の傍を通った。  俺はその木のことを「大楠おおくすさん」と呼んでいる。大楠さんの高さは一〇メートルを少し超える程度であり、そのぐらいの高さの樹木であれば我が高校の校庭だけでも何本も生えている。しかし、大楠さんの幹は非常に太く、繊維を束ねたようなその幹回りは三メートルを超える。特殊能力の有無に関わらず、大楠さんを見て、その生命力の強さに圧倒されない人間はいないだろう。  大楠さんは住宅街のど真ん中で生き残っている。これには理由があり、大楠さんは県の史跡に指定された武家屋敷の敷地内に生えているので、史跡と一緒に保護されて伐採されずに済んでいるのだ。 「お帰り。いい一日だったかい?」 「まあ、普通かな。また明日」  大楠さんには俺が寄り道をしない限り、毎日、朝夕の二回出会う。自転車で通りすがりに出会うだけなので長話はしないが、毎回、俺に一声掛けてくれる。大楠さんは単に俺を見守るだけでなく、俺の心身の状態を察し、気の利いた言葉を掛けてくれたり、パワーを送ってくれたりする有難い存在だ。  大楠さんは能力を持たない一般の人間にも勝手にパワーを送っている。俺の見たところ、余程の悪人じゃない限りは等しくパワーを送っているようだ。大楠さんは人々の平凡な生活を陰で支える優しい精霊なのだ。  

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