The Heart of the Tree
16 意外な目撃者

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 学校からの帰り道、俺は事故現場の交差点で信号を待っていた。時刻は夕方の6時だが、人も自動車も自転車もたくさん通行している。この時間帯に起こった交通事故であれば目撃者も多く、加害者は逃げる気さえ起こらないであろう。  ふと交差点の向こう側を眺めると、二階建ての一軒家の上方に江戸松さんの天辺付近が見えることに気付いた。今までは気付かなかったが、江戸松さんは事故を目撃していた可能性がある。俺は信号を渡って公園に入ると江戸松さんに近付いた。  散歩や町内清掃の手伝いなどで時々公園に立ち入ることはあるが、江戸松さんに近付くのは小学生の時以来で、久しぶりの懐かしい感覚を思い出した。江戸松さんに近付くと、まず、その大きさに圧倒される。そして、巨体を支えている太い根本や数百年の風雪に耐えてきたであろうゴツゴツした幹を見ると、その生命力の強さに感動を覚えるのだ。  これは俺のような能力者じゃなくても多くの人間が感じるものだと思う。だからこそ、江戸松さんは皆から愛されて大事にされているのだ。ちなみに我が一族の能力者のように、オーラがはっきりと見えたり、精霊と会話ができる能力は無くても、霊感が強いという人間の中には木の精霊のオーラを感じ取れる者が時々おり、中にはオーラが薄っすらと見えると言う者も存在する。  俺は江戸松さんにメッセージを送った。 「江戸松さんは楓のひき逃げ事故を見たんじゃないかな? 犯行車両が見つからないんだ。教えておくれよ。」 「・・・・・」 「頼むよ、江戸松さん。白い自動車らしいんだ。犯人が逃げたままなんて許せないよ」 「・・・・・」  相も変わらず江戸松さんは何のメッセージも送って来ない。幼い頃は単に会話がしたいと思ってメッセージを送っただけだったので、心からお願いをすればあるいはと思ったが、やはり無駄だった。 「もういいよ」  俺がその場を立ち去ろうとした時、 「シルバーの5167」 「えっ」 「シルバーの5167」  間違いなく、江戸松さんが俺にメッセージを送ってきた。 「色がシルバーで、ナンバーが5167だね」 「・・・・・」 「ありがとう」 「・・・・・」  俺は忘れないうちにスマホにメモを打ち込むと急いで自宅に帰った。  江戸松さんから有力な情報を得た。おそらくは街灯が乏しく、犯行車両のヘッドライトが眩しい中、楓には犯行車両が白く見えたのだろうが、実際の色はシルバーだったらしい。しかも、江戸松さんはナンバーまで教えてくれた。しかし、有力情報を得たものの、警察に「木の精霊に聞いた」と言えるわけもなく、「俺が見た」と嘘をつくわけにもいかない。  そこで俺は事故を目撃した者の匿名投書を装い、パソコンで警察あての手紙を作成し、その日のうちに集配郵便局の前に設置してあるポストに放り込んだ。そのポストなら夜の遅い時間でも手紙が回収され、届け先がその郵便局の管内であれば、翌日中に配達が可能と聞いていたからだ。  匿名情報ではあるが相当に車両が絞られる情報なのだから、警察も一応確認するに違いない。案の定、翌日の放課後に父から犯人が逮捕されたとの電話連絡が入り、俺は思わずガッツポーズをした。  父には江戸松さんのお手柄であることは伝えなかった。深い理由は無いのだが、何故か伝える気にならなかったのだ。

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