愛すべき彼女、愛せない彼。
欠陥品の男5
「あの、すみません」 女性の通る声で呼びかけられて我に返る。注文を取りに行くと、3人組の女子高生が大きな目でこちらを見ていた。 「えっと、私がパスタでこっちが……」 「どうしよ。やっぱり別のもの頼もうかな。すみません、少しだけ待ってもらえますか」 「あ、お兄さんのおすすめってどれですか?」 3人が交互に話し出し、俺の目をちらちらと盗むように見る。人が混んできているので、早くしてくれないかと苛立ちを覚え始めた時、真隣の席の人がすっと手を上げた。 「店員さん」 芯のある声だ。彼女の方を見る。少し低くて媚びた色を全く感じさせない。目が合うと無意識に手に力が入った。 「先に注文、良いですか」 長引くのなら、先にお願いと言いつつ彼女は3人組を一瞥する。その勇ましさというか、雰囲気に飲まれたのか、女子高生たちの顔が強ばった。 「アイスティーを1つ」 人差し指を上に向け、にっこりと微笑む。それから手元の分厚い本に目を向けてから、続きを読み始めた。こちらの事など興味なさそうに、自分の世界を決して崩さないように。 「はい、かしこまりました」 正直、この時の印象はほとんど無かった。珍しいとは思っていたが、大して気に留めていなかった。 けれど彼女こそ、俺の人生を変えるきっかけとなった女性、清花だった。
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