作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 僕が遠くの学校に行くと言ったら、ゆらはきっと嫌がるだろうなと思った。泣いちゃったらどうしようとも思った。  けれども、僕には僕の夢があったから真っ直ぐゆらに伝えた。  ゆらは嫌だと言わなかった。泣くこともなかった。  わがままを言ったらいけないと思っているとも違うゆらの笑顔は、向日葵みたいで、なにかを包み隠すものなど存在しない真夏の真っ青な空の下にいるようだった。  といっても、今は秋の終わり。  北風が強くなりはじめて、来年の受験に向けた進路希望を提出したばかりだ。  中学一年生の夏、ふたりで電車に乗って日帰り旅行のようなものに行った。あまり電車に乗り慣れない地域に住む僕らにとって、二時間電車に揺られただけでとても遠くに来た気分だった。  中学生になった僕は、ゆらとふたりだけでどこか行ってみたいと母さんと父さんに相談してみた。そうしたら向日葵が綺麗な公園があるよと教えてくれた。  ひとつ県を越えるけど、電車で一本だし二時間で着くしというから、僕はゆらのお母さんに直接話して許可をもらった。  それまでの僕とゆらは、家族でしか遠くに出かけたことがなかった。少しだけ大人になった気分の中学一年生の夏、僕にとっては一大決心に近いものがあった。  母さんと父さんが向日葵の公園を提案したのには理由があった。  僕と居る時のゆらの笑顔がいつも向日葵みたいだから。  知った時はすこぶるくすぐったくなった記憶付きだ。  その頃、僕はまだゆらのことをゆらちゃんと呼んでいた。  向日葵が太陽を見上げるさまを真似して太陽を見上げたゆらの顔があんまりにも嬉しそうで、「ゆらちゃんに一番似合う花は向日葵だな、でもゆらちゃんの誕生日は夏じゃないからあげられないなあ。困ったなあ」なんて思った覚えがある。  秋の空の下、あの時と同じ顔でゆらが僕を見ている。 「つかさくんのことが大好きだから、つかさくんには大好きなことを追いかけてほしいの」  それからゆらは「つかさくんと同じくらい大好きなことを追いかけるゆらのことも、ちゃんと大好きでいてね」と言った。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません