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⁂ 「山下早紀子です、よろしくおねがいします」 「……よろしく」 「名前は、なんて言うんですか?」 (めっちゃ地味な子じゃん)  そのくせ声はアニメ声。オタクっぽい。  なんて、またマウント取ろうとする自分にため息。  だめだ、そんなんじゃ。 「坂野美憂。本当は三年生の年齢だけど、よろしく」 「うん、よろしく!」  無邪気に笑う早紀子は、漫研のみんなを思い出す見た目だった。  アニメキャラのグッズをつけて、メイクもしてない。  そのくせうさ耳の付いたフードなんか着てる。  ああもう。見下す癖がなかなか抜けない……。 「美憂ちゃんって呼んでいい?」 「……うん」 「あたしのことは早紀子って読んでね」 「うん」 「元気ないね」 「……だって、馬鹿高校だし」 「それって、青春を楽しまない理由に関係あるの?」 「え?」 「どんな場所でも楽しんだもの勝ちじゃないの」  無垢な瞳で早紀子は言った。  本当に不思議そうに、言った。 「楽しめるかな、私でも」 「本人がその気なら楽しめるって漫画に描いてあった」 「漫画かよっ」 「そのつっこみ、いいね!」 「えっ」 「美憂ちゃんって面白そう」 「はあ」 「服もお洒落だし」 「そりゃ雑誌研究してメイクも動画いつも見てるし?」 「すごいね!」 (ああ……またマウントを……)  わかってるのに。  そんなマウントにも笑顔で早紀子は動じないでほめてくれるから。 「……早紀子も可愛いよ」  私は、心からそう感じた。  ダサいし、容姿的には可愛くないのに。  早紀子は可愛くて、いい子だった。 ⁂ 「早紀子って子どうだった?」 「いい子でかわいい感じだったよ」 「親、珍しい。マウントとらない」 「……もう、マウントマドンナはやめるから。マウントマウント言わないで、英寿」 「へえ。いいじゃんその心がけ。自分に素直になればいいよ」 「……そんな簡単にできるのかな」 「心の思うとおりに生きるのは難しいしね」 「何でそんな悟ってんの」 「オレも先輩とかに教わっただけ。皆最初は知らないから」 「いつの間に先輩の友達が」 「そりゃ違う高校だし。この高校は看護学校とか行きながらの先輩もいるし、夢をもって会えてたやつもいる。本当にいろんな子がいる。刺激がいっぱいだよ」 「ふぅん……」 「学歴がすべてじゃないってやつらがいっぱいいる。だから、美憂にはいいと思った」 「……あっそ」  素直にお礼が言えない私は、そっぽを向いた。  本当はありがとうって言いたいのに。  プライドが邪魔をするんだ。 「誰かより優れてるとか、誰かより劣ってるとか。それよりも自分がなりたい自分にいかに近づくか。そういう事が、見えてくるはずだから、美憂にも」 「なんか知らない人みたい」 「お前の止まってた二年、ずっと俺考えてたんだ」 「何を」 「どうすれば美憂を外に引っ張り出せるかって」 「え?」 「そしたら、オレが人生の先輩になるしかねーなって」 「……ばかみたい」 (本当に、馬鹿)  私がやる気を出す保証なんてないのに。  勝手に私が変わる気を出すって信じて。  ……バッカみたい。 「泣きそうな顔すんなよ。美憂」 「はあ!? そんな顔してないから」 「よかった。言い返す元気があるみたいで」 「え?」 「その方が美憂らしい」 「……っ」  私をそう言って撫でる英寿はまるで私よりうんと先を生きてるように見えた。  そのうち置いてけぼりを食らうんじゃないかって、不安になるぐらい、大人びて見えた。 ⁂ 「美憂ちゃんおはよう」 「おはよう、早紀子」 「英寿先輩もおはようございます」 「ん。おはよう、早紀子ちゃん」 「今日もかっこいいですね。英寿先輩」 「はあ? どこが?」 「真面目で、清潔感あって、シンプルな顔が」 「シンプルな顔……」 「美憂、爆笑をこらえるのやめて」 「だって、シンプル……」 「分かってるよ、オレの顔が地味なことぐらい」 「え? シンプルな顔って駄目ですか!?」  早紀子があたふたしている。  英寿は、にっこり笑って首を振る。 「ケバイ美憂がそばにいるからしかたがない」 「誰がケバイって?」 「美憂」 「年相応のメイクしてるだけだし」 「まーた他人の言う年相応に振り回されてるし」 「っ……いいじゃん。別に」 「本当に好きな服装すればいいのに。昔はお人形にフリフリ着せてたのに、今じゃシンプルで雑誌に載ってる流行の服」 「フリフリ! 美憂ちゃんお人形さんみたいだから似合いそう!」 「……それは、昔の事でしょ」 (そりゃ、昔はお姫様に憧れたけど、今完全悪の女王様ポジじゃん)  今更、可愛い格好何て似合わない。  可愛い言葉も、似合わない。  それぐらい、わかってるし。 「着てみればいいのに」 「……私の勝手じゃん」 「そうだね。美憂が着たい服を切ればいいとオレも思うけど」  じっと私を見る英寿。 「正直今の美憂って、量産型なだけな気がする」 「はやりに乗って何が悪いの」 「好きならいいけどさー」 「あっ、チャイムなりますよ! 英寿先輩」 「おっ。早紀子ちゃんありがとう」 「いいえー」  早紀子に言われて、英寿は去っていった。  フリフリのお姫様なんて。  絶対私らしくないじゃん……。  頭の中にフリフリのお姫様の恰好をした私を想像する。  着せられてるようでむずかゆくなって、すぐにその思考を捨てた。  そんなの「らしく」ない。

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