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⁂ 「誰、アレ」 「コスプレ系?」 「ゴスロリ……?」 「似合うけど、何で高校に?」 「私服校だしいいけどさ……個人的に近くに寄りたくねぇ」 (言われたい放題)  プライドという服を脱いで。  前から着たかったドレスにそでを通した。  私は、お姫様になりたかった。  まっすぐ正義を生きるお姫様になりたかったのだ。  だから私は、憧れていたお姫様の服……ロリィタファッションをお迎えした。  お年玉があったので、お店で一式そろえて。  慣れないピンク系のドールメイクも頑張った。  フリフリひらひらなドレスは動きづらいしよく目立つ。  ピンクだらけなんて、今までならやらなかった。  人に笑われるから。ダサいから。ぶりっ子扱いされるから。  そんな世間の目に振り回されてた。  今までならね?  だけど今私は。 (自分に素直になりたいから)  この、ありのままの自分をまずは受け入れないと。  似合わないのはわかる。  洋服に着られてるるのもわかる。  それならば、似合うように努力すればいい。  あきらめる必要はない。 (私は私だ……!)  歯を食いしばりながらどんどん歩く。  見た目は優雅に上品に。  大きなリボンにツインテールなんて小学生の頃馬鹿にしたぶりっ子みたい。  本当は、あの時羨ましかったから、馬鹿にしたんだろうな。  できないことを、してる人がまぶしくて、憎くて。  私は素直じゃないから。 (本当嫌な性格だったし、今だって大差ない……)  それでも。  いくら性格が悪くても、好きな気持ちはかえられないし、帰る必要はない。  拒絶されたときはその時考えればいい。  好きになるだけなら、自由だって。  感情は個人の所有物なんだから。  それなのに、私はそれを他人の物のように扱っていた。  馬鹿。  坂野美憂は私であり、誰でもないのに。  カツカツ、と金色の靴が音を鳴らす。  まるで魔法をかけているかのように目の前の道が開いていく。  そしてその先には。 「英寿……」 「美憂、どうしたんだその恰好」 「お姫様みたいでしょ」 「まあ、そうだけど……急に何があったんだ?」 「前からあこがれてた自分に歩みよってみたの」 「……まあ、お姫様になりたいのは知ってたけれど、勇気出したな」 「だって変わりたいんだもん、私」  英寿のために。私のために。  変わりたいと願うから。 「勇気を出して、自分に正直になって生きてみようと思って」 「いいんじゃねーの。似合ってるよ」 「そう? 本当に?」 「今までの嘘くさい量産型よりよっぽどお前らしい」   英寿はにっこり微笑んで白い歯を見せた。  そこに早紀子がやってくる。 「うわあああああ! すごい、美憂ちゃんお姫様みたいっ」 「……早紀子。ありがとう」 「すごいー。写真撮りたいレベル」 「これからずっとこの服装ばっかだし、撮らなくてもいいよ」 「えっ。お姫様の恰好で生きるの?」 「許される場所ではね。私らしく生きようって」 「……本当に、変わったんだね、美憂ちゃん」 「うん。自分できっかけを作らないと言いたいことも言えないと思ったから」  私は苦笑いを浮かべる。  早紀子はポカンとした顔で私を見る。 「言いたいことって?」 (そうだよね。言わなきゃわかんないよね……)  私はスウ、と息を吸う。  そして早紀子を見る。  当然のように次に英寿を見る。 「私、英寿が好きだから!」 「……え? オレ? を? 美憂が?」 「うん。意地になって言えなかったけど。本音言うね。私、英寿が大好きで恋してる。だから、早紀子には渡せない。譲れないよ。あいまいな関係ももう嫌だし、付き合ってほしい、英寿。お願い、恋人にしてくださいっ」 「……ええ!?」  動揺する英寿。  信じられないものを見るような眼で見ないでよ。  恥ずかしいじゃん。 「美憂ちゃん、偉い……!」  早紀子なんか泣いてるし。  何であんたが泣くの。 「でもあたし、ライバルになるって決めたから……相手が美憂ちゃんでも戦うし、友達も続けるから……許してね」 「許すに決まってるじゃん」 「……美憂が俺と付き合いたい……?」 「そこ、ポカンとしてないで、返事は!?」  思わず私は英寿に向かって叫んだ。  周りの目がう一斉に英寿に集まる。  英寿は顔を真っ赤にしてあたふたし始める。 「……最初から、オレのマドンナはお前だけだよ。美憂」  うわあああああああああああああああああ! とみんなの声が響く。  あまりにも臭いセリフのセレクトに、冷やかす人まで出てきた。 「マドンナって何?」 「令和の今にマドンナ!?」 (やめて、マドンナって自分でも名乗ってたのが恥ずかしくて死にそうになるかそこは掘らないで……)  めまいがしそうになってふらつくと、英寿が飛んできた。 「英寿……ってうわあっ」 「逃げるぞっ」 「ええええ!?」  唐突にお姫様抱っこされる私。  まるで絵本の中のお姫様のようで。  王子様は地味だし、冴えないし、かっこいい顔はしてないけれど。  私にとっては一番カッコいい「王子様」だから。  なりたかった自分になれた私は、何処か夢に生きてるように気持ちになりながら、笑顔で英寿のされるがままになっていた。 ⁂ 「あ、マドンナだ」 「マドンナマドンナ」 (……あだ名がマドンナになってるし)  絶対英寿が原因である。  オレのマドンナ、なんて発言するから。  まあ、嬉しかったけれどね?  照れくさいけれど、あれから私は英寿と付き合っている。  たまに王子様みたいな恰好をしてくれる付き合いのいい英寿は、正直全然にあってない。だけど私には最高に魅力的だから、いいんだ。  英寿の良さは、私がわかればいい。  まあ、早紀子もわかっちゃってるんだけど……。 「いいなあ、マドンナって呼ばれて。あたしも呼ばれたい」 「早紀子……」 「ああ、でもオレだけのプリンセスのほうがいいかな……」 「やめて、掘り返さないで……」 「照れてるー! 可愛い美憂ちゃん」 「恥ずかしいんだってば」 「あはは。でもさ、美憂ちゃんが転入してくれてよかったなあ。本当」 「何を唐突に」 「どんな理由でここに来たかは知らないけどさ」 「うん?」 「何かがあって、ここに来てくれた美憂ちゃんがいたから、あたし達は出会えたんだなって。そう思うとその何かが最悪な出来事でも結果的には最高だなって思うんだ」 「早紀子……」  マウントマドンナと呼ばれたとき。  私は最高に絶望して。  生まれたことも、あの学校に進学したことも後悔した。  間違えた道に迷い込んだと信じていた。  だけれど。  そのおかげで今の私になれたなら。  むしろそれはうらみちや近道だったのではないか。  ほかの人の知らない迷路こそが、人生経験として役立ったのではないか。  確かにそんな気がしてきた。 「通信制の高校に来てくれてありがとう。美憂ちゃん。出会えてうれしいよ」 「早紀子……私も早紀子に会えてよかった。早紀子がこの進路を選んでくれてよかったよ」 「人生に無駄なんてないよね……きっと、その後の自分次第だよ」 「がんばろうね。私達。挫折したからこその経験を役立てたいなって思うもん」 「うん。あたしもだよ。美憂ちゃん」 「……そこ、見つめあっていちゃつかないでくれる?」 「英寿!」 「あっ、英寿先輩っ」  不満そうに不貞腐れる英寿登場。  何気に存在忘れてたけど、さっきからいたみたいだ。  不機嫌丸出して私たちを引きはがして真ん中に座り込む英寿。 「二人ともオレが好きなんじゃないの」 「好きだけど、早紀子も好き」 「美憂ちゃんも英寿先輩も好き」 「……三人思いあってるのはいいけれど、美憂はオレの彼女だからね。オレと美憂どっちが好きなの、早紀子ちゃんは」 「どっちでしょう?」 「そこはぼかすとこ? 早紀子ちゃん」 「あははっははは」 「笑うとこ? 美憂」  英寿が頭を抱える。  そんな姿も愉快で私たちは笑う。  プライドを脱ぎ捨てるのが怖かった。  着たい服を着るのが怖かった。  ありのまま、でいるのは勇気がいる。  だけどそれを受け入れてもらえたら。  それって最高の事だよね。  ……それを私は、誰かに伝えたい。  迷ってる人の、力になりたい。  他人を傷つけて生きてきた私の、罪滅ぼしにはならなくても。  誰かのために、手をし差し伸べれる人になりたいと思った。 ⁂ 「最近美憂勉強熱心だな」 「うん。夢ができたから」 「どんな夢?」 「少年課に勤めたい」 「警察? 美憂が?」 「そうだよ。英寿」 「ふうん……厳しいと思うし、自由な時間も少ないぞ。わかってるのか?」 「追い込まれて、色々間違えちゃう気持ちは、痛いほどわかるから」  その時にただ非難して指をさすだけの大人にはなりたくなくて。  ヒントをあげたり、隣で支えれる大人になりたいと思った。  私みたいに、腐っていた時期があるからこそ、寄り添えるはずだから。 「オレも早く社会人になりたい。母さん楽させるんだ」 「本当、英寿はえらいよね。お母さんのために前からバイトしたり、私のために頑張ってくれたり」 「好きだからだ」 「え?」 「二人が好きだから、好きな奴の笑顔が見たいだけ。シンプルだろ」 「顔もシンプルだけどね」 「余計なお世話だ」  でも、その気持ちはよくわかる。  私だって、英寿の笑顔が見たい。  早紀子の笑顔も見たい。   皆で和やかに笑ってる時間が大好きだ。  泣いていたら、きっと私も悲しくなってしまうだろう。 「できることから始めればいいさ。オレらはまだ、若いんだ」 「青春だもんね、今」 「すっごい苦い青春だけどな」 「その分甘みも引きたつから、いいじゃん」 「……言えてる」  笑いあう私達。  つらいだけの人生なんてない。  そう言えばウソだと叫ぶ子もいるだろう。  でもね。私は思うんだ。  それって視点を変えれば本当になるって。  でも苦しいときの視点って、色眼鏡になっていてたり視野が狭くて。  自分しか見えなくなってしまう。  そんな時だれか支えてくれたり、そばにいれば……。  心には少し余裕ができるから。 (私にとっての英寿と早紀子のようにね……)  ……私は誰かの道しるべに、なりたい。

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