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⁂ 「早紀子ちゃんって地味なのに先輩と付き合ってるんでしょ」 「で、彼氏も地味らしいけど」 「だからどうしたの。嫉妬?」  女子トイレの個室から出た私は、思わずその会話に割って入る。 「地味だろうが、好き同士ならいいじゃん」 「慰めあいっぽいじゃん。見た目が悪いもの同士の」 「そーそー」 「二人の悪口言うけど、二人と会話したことあるの?」  私はいらいらしていった。 「嫌だって地味で一緒に歩きたくないし」 「恥ずかしいじゃん? ダサくて」 「……もったいない人たち」 「何? マウント」 「ううん。これはただの事実だわ。あの子らいいやつだし」 「坂野さんって変わってる。見た目今風でイケてるのに。あーでも留年してるんだっけ」 「だから何」 「そっかー……ふぅん」 「行こ。かまうだけ無駄だよ。こんな子」 「だねー」 (なんだったんだあいつら)  不機嫌なため息をつく私。  そして後ろから聞こえるすすり泣く声。  ビックリして振り返ると個室から泣き声がした。 「……何? 何? 怪奇現象!?」 「あたし」 「え?」 「早紀子だよ……美憂ちゃんありがとう。うちらをかばってくれて」 「……友達だし」 「あたしさ、いつも地味でダサいし、勉強もできないからずっと笑われて当たり前って我慢して生きてきたんだ」 「……早紀子」 「でも、怒ってもらえてうれしかった。本当は、あたし悔しくていやだった見たい」 「別に、そう思うのは普通だと思うけど」 「あたしなんか馬鹿にされて当然って思ってたんだよ」 「……早紀子はいい子だよ」 「美憂ちゃん……」  早紀子が泣きじゃくる。  私は慌てて早紀子を抱きしめる。 「大丈夫、だから、早紀子」 「ふええええ……ずっと怖かった。トイレの中ですごく怖かった」 「……よく耐えたね、早紀子」 「美憂ちゃんみたいに、なりたい。あたし」 「……私みたいに? だめだよ。こんなあまのじゃくで、プライドだけが高いやつ」 「そういう、自虐できるのはすごいなって思う」 「え」 「自分を性格悪いって思えるだけ、大人だよ」 「早紀子……」 「いじめっ子はみんな、自分は正義だって思ってるみたいだったし」 (私も、そうだったな……)  だめな人間だから、マウントなんか取って当たり前。  かまってあげてる私はむしろ優しい、善人。  それぐらい、歪んだ考えを持っていた。  傲慢だった。  思いあがっていた。  自分を神様のように勘違いしていた、苦い青春。 「私もはじめからこんなんじゃなかったしさ……その」 「……それは、何がきっかけで?」 「え?」 「美憂ちゃんを変えたのは、誰? 変わりたいと思う理由は、誰がいるから?」 「……それは」 「自分の気持ちに素直になってもいいと思う、美憂ちゃんは素敵な人だから」 「早紀子」 「自分を見つめれる素敵な美憂ちゃんならきっと、向きあるから」 「……ありがとう」  私は泣きそうになりつつ言った。  早紀子は優しい顔で私を見る。 「応援してる。そして、美憂ちゃんが頑張った結果に不満は持たないつもり」 「不満は持っていいよ。自由。自分に正直になっていいのは、早紀子も同じだよ」 「……わかったよ。美憂ちゃん」 「さあて、お昼ご飯食べに行こ」 「そうだね。英寿先輩が待ってる」 「心配されないようにメイクしてあげるよ、早紀子の目、腫れてるし」 「美憂ちゃんもね」  思わず吹き出す私達。   私はコスメポーチを取り出して、買いたてのコスメを広げた。 「メイク用品変えた? 美憂ちゃん。どれも新しい感じがするけど、あたしが使っていいの?」 「いいの。これからずっとこれを使うし」 「ピンク系が多いんだね? 前とは違う感じ……」 「うん、ピンク好きっぽいから」 「? そうなんだ。美憂ちゃんって流行りの色しか持ってなかったから知らなかった」 「私も最近知ったけどね」  本当に、知らなかったんだ。  私が何に憧れて、どう生きたかったか。  あの場所に行くまでは、心も定まってなかった。  だけど今は。  ……本当の自分が見えてきたから。 「ビックリしないでね? これからの私を見て」 「……? ビックリはしても嫌いにはならないよ。美憂ちゃんを」 「それならビックリしてもよし」 「どうしたの美憂ちゃんは」 「別に」  思わず私は笑いだす。  早紀子は意味が分からないという顔で私を見る。  だって、嬉しくて、楽しくて。  独り大爆笑する私を、トイレに来る女の子たちは不審そうに見ていた。 ⁂

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