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白猫
 本作のテーマは欲望です。が、大きな力に守られ、人類史に似た出来事の連続の中を穏やかに過ごして行く主要登場人物たちには、欲望がありません。  私はこの作品を、ある方から託された草案を元に書き上げました。よって、原作者はその方ということになります。原作者、彼女は、東日本大震災をきっかけに死を身近に感じるようになり、還暦が視野に入ったこともあって、いつその時が来ても後悔のないようにと、何か一つ、作品と呼べるものを残そうと思ったのだそうです。そこで、絵画や彫刻等の案の中から物語を選んだのだと。  草案を作る際に思い描いたのは、幼い頃に親しんだ物語たち。児童書をイメージし、孫に読ませるつもりで書き始めたとのことです。  筆を進めるうちに、彼女は〝これは死者への物語だ〟と確信します。折しも東北地方で水害が起き、高齢の方がご自宅と運命を共にされたことがニュースになっていました。悲しみを抱えて亡くなった魂に、この物語を読んで幸せになってほしい――こう願ったそうです。  さらに作業が進み、ある一人の不遇な知人女性の姿も思い浮かぶようになったと聞きました。その方がこの物語に触れ、女性登場人物の誰かに感情移入する時、傷んだ魂が癒され、幸せ色に輝いたならどんなに良いだろうかと。そう思ってからは、物語が鎮魂歌へと変わっていったと。  私はこの物語が誕生過程でテーマを逸したとは考えておりません。それはファンタジーを非現実的な事柄を描くものであると捉えているからと、存在するはずのない〈欲望を持たぬ人間〉たちが過ごす時間を「ありえない」と否定することで、少なくとも私は、欲望というものに向き合う機会を得たからです。原作者もダイヤを見て石ころを知るではありませんが、そんな風にしてこの世界を認識していたのではないかと思います。読み進めていただければ、私のこの感覚がご理解いただけるかもしれません。  長々と喋り続けてしまいましたが、最後にこの物語の手っ取り早い楽しみ方を一つ。作中の、白とピンクに注目してみてください。原作者が好きな色ですから、鍵となる場面には必ず登場します。低年齢の方にも読んでいただくべく平易な表現を心掛けた作品ですが、白とピンクのシーンは草案の段階で気合いが入っていましたから、私も釣られて少し我を出してしまったかなと後悔半分達成感半分。「ああ、確かにな」と笑っていただければ幸いです。
広末あんり
2020/09/27 11:10
児童小説
完結済み / 全43話